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そうじゃないと、幼馴染という重要な人物から、ヘレナを隠す理由にはならないような気がした。
そう思うからこそ、ヘレナはそっと視線を下に向ける。ルーカスは、少し慌てたような様子になる。
「……その、悪い意味では、ないんだ」
……信じられなかった。
「幼馴染は……その。俺に好意を抱いてくれているんだ。だから、あの場で鉢合わせると修羅場は間違いないな……と、思って、だな」
ルーカスに好意を抱いているということは、女性の可能性が高そうだ。
そんなことを思ったら、不意に胸の奥につんとした痛みが走ったような気がした。
これではまるで……ルーカスのことが、好きみたいじゃないか。
(ほんの少し関わっただけで、好きになってしまうなんて……)
なんと、軽い女だろうか。
いや、今までもルーファスに片想いをしてきたようなものなので、少し違うかもしれない。
でも、ヘレナはそう思ってしまうのだ。
「俺は決して、ヘレナ嬢のことを紹介できない婚約者だと、思っているわけではないんだ」
ゆるゆると首を横に振りながら、ルーカスがそう続ける。
……そう言ってもらえて、ほんの少しだけ救われたような気分だった。
ヘレナがそれを実感していると、目の前に先ほど注文したメニューが届く。
ミルクティーとイチゴのショートケーキを受け取り、ヘレナは気持ちを誤魔化すように軽く息を吐いた。
ミルクティーに砂糖を入れて、軽く混ぜて口に運ぶ。仄かな甘みと適度な温かさが、ヘレナの心を落ち着けていく。
(……そうよ。ルーカスさまにどう思われようが、私には関係のないことだわ)
ルーカスとヘレナは、そもそも似合っていないのだ。
ならば、彼にどう思われようが、知ったことではない。理解をする意味もない。
そう思うのに……この胸の痛みは、一体なんなのだろうか。
ふと視線を上げれば、ルーカスは何故か自分の飲み物やケーキには手を付けず、ヘレナのことを凝視していた。
その真っ赤な目があまりにも美しくて。ヘレナはぼうっと頬に熱を溜めてしまった。
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