第1章

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 それから、ヘレナはテレシアに連れられ、劇場の近くにある行きつけのカフェに入った。  そこで席に着き、それぞれ紅茶とケーキを注文する。  注文を終えると、テレシアは席から身を乗り出し「今日の舞台も、最高だったわ!」と言う。その姿は、まさに夢見心地というようにも見える。  対するヘレナは、彼女の勢いに押されつつ頷いた。 「えぇ、ルーファスさまの演技は、いつだって最高だわ」  のんびりと答えれば、テレシアがうんうんと力強く頷く。 「特に女優に告白するシーンが最高だったわ! ……あぁ、私もあんな風にルーファスさまに愛されたい!」  テレシアがうっとりとした表情で、そう呟く。  ヘレナの友人であるテレシアは、ヘレナ同様ルーファスを推している舞台オタクの子爵令嬢である。お茶会で偶然出逢い、話したところ意気投合。気が付けば、一緒に舞台を見に行くような仲となっていた。  ちなみに、ガチ恋勢ではないヘレナに対し、テレシアは完全なガチ恋勢である。ルーファスに恋い焦がれ、いつかは彼と結婚したいと言っているような女性。  テレシアは普段同じ人を推している人とは仲良くならないが、ヘレナは別だと言っていた。  なんでも、ガチ恋勢ではないから……とか、なんとか。 (ルーファスさまのファンって、ガチ恋勢が圧倒的に多いものね……)  ほかの舞台俳優とは違い、ルーファスを推している女性はガチ恋勢が圧倒的に多い。  いずれは彼と結婚したい。彼の恋人になりたい……という女性が、後を絶たないのだ。  その所為なのか、ルーファスのファンの中には迷惑行為を繰り返すような女性も一定数いる。  ヘレナとしては、そういう人たちと同じような目で見られるのは辛いため、やめてほしいと思う。でも、ルーファスの追っかけをするのが今の生きがいなのだ。  つまり、ヘレナのほうがファンをやめようというつもりは一切ない。
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