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彼はそのまま顔を見つめて「大丈夫?」と問いかけてきた。
その声も、その顔も。その態度も、その性格も。
すべてが、ヘレナの理想だった。彼には悪いところが一つもないのではないか。そう、思ってしまう。
「だ、だいじょう、ぶ、です……」
けれど、ここで黙り込んでしまうのは失礼に値する。
そう思うからこそ、ヘレナは顔に熱を溜めながら、ルーカスに小さな声で返事をする。
すると、彼は「よかった」と言ってほっと胸を撫でおろしていた。
「いきなり歩き出したのが、悪かったのかな。……じゃあ、ゆっくりと行こうか」
「は、はいっ!」
決してヘレナのことを責めたりしない態度に、心がほんの少しずつ彼に傾いていく。
いや、違う。本当はずっと前からいいなぁと思っていた……の、かもしれない。
それがルーカスに向けた感情なのか、はたまたルーファスに向けた感情なのか。そこは、まだいまいちはっきりとはしていないのだが。
(ルーカスさまは……ルーファスさまではないご自分を、愛してほしいのよね……)
彼の言動を聞いていると、そう考えてしまう。でも、ヘレナが好きなのはルーファスであって、ルーカスではない……ような、気もする。
そこがはっきりとしないのは、未だに彼がルーファスだと信じ切れていないからなのかもしれない。
「ヘレナ嬢。まずは、何処に行こうか?」
彼が振り返って、ヘレナにそう声をかけてくれた。
その顔には輝かんばかりの笑みが浮かんでいて。……この胸の高鳴りは、その笑みの所為だ。そう、思いこもうとして。
(……このお方の、お隣にいたい)
ほんの少しだけ浮かんだその感情は、所詮は一時期の気の迷いで。
そう思っていないと、ストッパーが壊れて、彼のことを本当に好きになってしまいそうだった。
好きになんて、なってはいけないのに。……こんな女に好きになられたところで、迷惑でしかないだろうに。
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