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店員の女性が持ってきた紅茶に角砂糖を一つ入れ、ティースプーンでかき混ぜる。その間、テレシアはずっと熱心に語っていた。
「それにしても、今日の演出はいつも以上に素晴らしかったわねぇ」
ふとヘレナがそう口を挟めば、テレシアは「えぇ、そうね」と言いながらその吊り上がった水色の目を細める。
「すべてが、ルーファスさまのことを輝かせていたわ」
「……あなたは、そればかりね」
少し呆れたようにそう言えば、彼女は「当然よ!」と言って胸を張った。
テレシアにとって、主役はルーファスだけなのだ。それ以外の俳優も女優も、所詮は彼の引き立て役に過ぎない。
そういう思考回路に関しては、あまり同意できたものではない。が、人にはそれぞれの楽しみ方がある。だから、ヘレナはなにも言わない。
「私も舞台女優になれば、ルーファスさまとお近づきになれるかしら……?」
不意に、テレシアがそう言葉を零す。
なので、ヘレナは肩をすくめた。
「そう簡単なものではないわよ。特に、『アシュベリー』の審査はすごいという噂だし。こんな演技未経験者が、受かるようなものじゃないわよ」
「そうよねぇ……」
ヘレナの言葉に、テレシアは頬に手を当てながら項垂れた。
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