第1章

6/19
前へ
/68ページ
次へ
 店員の女性が持ってきた紅茶に角砂糖を一つ入れ、ティースプーンでかき混ぜる。その間、テレシアはずっと熱心に語っていた。 「それにしても、今日の演出はいつも以上に素晴らしかったわねぇ」  ふとヘレナがそう口を挟めば、テレシアは「えぇ、そうね」と言いながらその吊り上がった水色の目を細める。 「すべてが、ルーファスさまのことを輝かせていたわ」 「……あなたは、そればかりね」  少し呆れたようにそう言えば、彼女は「当然よ!」と言って胸を張った。  テレシアにとって、主役はルーファスだけなのだ。それ以外の俳優も女優も、所詮は彼の引き立て役に過ぎない。  そういう思考回路に関しては、あまり同意できたものではない。が、人にはそれぞれの楽しみ方がある。だから、ヘレナはなにも言わない。 「私も舞台女優になれば、ルーファスさまとお近づきになれるかしら……?」  不意に、テレシアがそう言葉を零す。  なので、ヘレナは肩をすくめた。 「そう簡単なものではないわよ。特に、『アシュベリー』の審査はすごいという噂だし。こんな演技未経験者が、受かるようなものじゃないわよ」 「そうよねぇ……」  ヘレナの言葉に、テレシアは頬に手を当てながら項垂れた。
/68ページ

最初のコメントを投稿しよう!

83人が本棚に入れています
本棚に追加