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「けれど、側にいるの恋人じゃない?」
「えぇ~。まぁ、当たり前かぁ。あんなかっこいい人に、恋人がいないわけがないし」
二人組の女性はそんな会話をしながら、ヘレナたちの横を通り抜けていく。
ルーカスはその女性たちの会話を、特別気にする様子も素振りもない。多分だが、彼にとってこんな会話など日常的なものなのだろう。いちいち気に留めているわけにはいかないということなのかもしれない。
そんなことを考えていると、不意にルーカスがヘレナと繋いだ手にぎゅっと力を込めてきた。
それ自体に、痛みはない。ただ、なんとなく心臓の音が大きくなったような気がしてしまう。
まるで、放さないとばかりの彼の態度に、心がきゅんとする。
「ヘレナ嬢」
そして、彼はなんでもない風にそう声をかけてきた。
驚きつつも、ヘレナが彼に視線を向ければ、彼は口元を緩める。
「俺は、ヘレナ嬢以外に興味はないから」
「……あ、あの」
「俺は、ヘレナ嬢と真剣に結婚したいと、思っているから」
ルーカスのその言葉に、嘘は感じられない。彼は責任を取るために、ヘレナと結婚すると言っていたのに。
そんな風に言われたら……まるで、本当に愛されているみたいじゃないか。何度も何度も考えてしまっていたことが、また脳内で反復する。
「俺は、ヘレナ嬢が好きだから。……だから、ヘレナ嬢にも俺のことを好きになってもらいたい」
「そ、それは……」
彼の言っていることの意味は、『ルーカスとして好きになってほしい』ということだ。
わかっている。わかってはいる、のだけれど……。
(ルーファスさまとして、ずっと好きだったのよね……)
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