83人が本棚に入れています
本棚に追加
それがルーカスの望んでいる答えではないということは、わかっている。だから、なにも言えない。
そう思いヘレナが頬に熱を溜めていれば、ルーカスはヘレナの身体を引っ張った。
「……ちょっと、こっちにおいで」
「あ、あのっ!」
「大丈夫。……怖いことは、しないから」
ルーカスはそれだけを伝えると、ヘレナを路地裏のような場所へと連れて来た。
それに驚いてヘレナが目を瞬かせれば、彼はヘレナの身体を後ろから抱き込んでくる。
「ちょっと、ごめんね」
彼が、耳元でそう囁いた。
「え、えぇっと……」
「ちょっと、知り合いがいてさ」
ルーカスはそのきれいな手をヘレナの口に当てながら、そう言う。どうやら、あまり見つかりたくない相手のようだ。
彼は路地裏から表通りを観察しつつ、ヘレナの身体を抱きしめてくる。……伝わってくる体温が、熱い。
(こ、こんなの、無理、むりぃ……!)
心の中ではそう叫べるのに、ヘレナの身体は硬直して動いてくれない。
ぎゅっと手のひらを握って、羞恥心を逃がそうとするものの、それさえも上手く行かない。
「……行ったかな」
すぐそばから、ルーカスの声が聞こえてくる。
至近距離に彼がいることもあり、耳元に彼の吐息が当たってこそばゆくてたまらない。
それに……なんとなく、身体が、熱くなってくような感覚だった。
(こ、こんなに、密着して……!)
この路地裏は、割と狭い。その所為で、二人で隠れるのは少々辛かった。
だが、ルーカスはそんなこと気にもしていないようで。
ヘレナだけが意識しているかのようで、なんだかもやもやとしたものが胸の中に募ってしまう。
「……行った、みたいだな」
そして、ルーカスがそんな言葉を呟いて、ヘレナを解放してくれた。
「る、ルーカス、さま……」
顔全体を上に向けて、ルーカスの顔を見上げる。
……すると、彼は何故か顔を赤くしていた。
最初のコメントを投稿しよう!