第3章

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 その表情をきょとんとした目で見つめていれば、彼はヘレナの身体から手を放す。 「わ、悪い!」  そして、そう言った。  どうやら、彼も照れていたらしい。  だからこそ、二人の間には気まずい空気が流れる。……不本意とはいえ、密着してしまった。  その所為なのか、身体の奥が熱い。 「……そ、その、ルーカス、さま……」  ゆっくりとヘレナがルーカスのことを呼べば、彼は口元を手で押さえた。 「……可愛い」  それから、彼がボソッとそう呟く。  その言葉を聞いて、ヘレナは目を大きく見開いた。……信じられなかった。  しかし、彼はすぐに気を取り直したらしく、ヘレナの手を取って表通りに戻っていく。  その際に「行こうか」と声をかけるのも、忘れなかった。 (……ルーカスさまも、あんな表情をされるのね)  ヘレナの瞼の裏には、照れたようなルーカスの表情がこびりついて離れてくれない。  頬を微かに紅潮させ、視線を彷徨わせる。そんな彼は大層美しくて……とても、色っぽかった。 (って、ダメよ、ダメ。こんなことを思っていては……軽い女みたいではないの)  けれど、そう思いなおして、ぶんぶんと首を横に振った。  そんなヘレナが、彼にはどう映ったのだろうか。それを知る術はない。  たって、ルーカスがヘレナのほうを見てくれないから。  彼の視線は何処か彷徨っており、ヘレナとわざと視線を合わせていないかのように思える。  掴まれた手首が、熱くて。ヘレナも頬に熱を溜めてしまった。
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