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その表情をきょとんとした目で見つめていれば、彼はヘレナの身体から手を放す。
「わ、悪い!」
そして、そう言った。
どうやら、彼も照れていたらしい。
だからこそ、二人の間には気まずい空気が流れる。……不本意とはいえ、密着してしまった。
その所為なのか、身体の奥が熱い。
「……そ、その、ルーカス、さま……」
ゆっくりとヘレナがルーカスのことを呼べば、彼は口元を手で押さえた。
「……可愛い」
それから、彼がボソッとそう呟く。
その言葉を聞いて、ヘレナは目を大きく見開いた。……信じられなかった。
しかし、彼はすぐに気を取り直したらしく、ヘレナの手を取って表通りに戻っていく。
その際に「行こうか」と声をかけるのも、忘れなかった。
(……ルーカスさまも、あんな表情をされるのね)
ヘレナの瞼の裏には、照れたようなルーカスの表情がこびりついて離れてくれない。
頬を微かに紅潮させ、視線を彷徨わせる。そんな彼は大層美しくて……とても、色っぽかった。
(って、ダメよ、ダメ。こんなことを思っていては……軽い女みたいではないの)
けれど、そう思いなおして、ぶんぶんと首を横に振った。
そんなヘレナが、彼にはどう映ったのだろうか。それを知る術はない。
たって、ルーカスがヘレナのほうを見てくれないから。
彼の視線は何処か彷徨っており、ヘレナとわざと視線を合わせていないかのように思える。
掴まれた手首が、熱くて。ヘレナも頬に熱を溜めてしまった。
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