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彼のその表情も、その態度も。その仕草さえも、ヘレナを魅了してやまない。
……この気持ちは、ルーカス・レイクスに向けたものなのか。はたまた、舞台俳優ルーファスに向けたものなのか。
それがはっきりとはしないものの、ヘレナは確実に――彼に、惹かれていた。
その認識を強めつつ、ヘレナはルーカスに振られた話題に的確に答えていく。
どんな食べ物が好き? 趣味は? どんな色が好き?
他愛もない話題だったものの、ルーカスといるとなんとなく輝かしく思えてしまう。
……きっと、それもこれも彼の話術が巧みなためだろう。
貴族の男性のステータスでは話術も重要視されている。女性をいかにして楽しませるか。それで、男性の器量が決まると言っても過言ではないのだ。
(……そう思ったら、ルーカスさまって本当に完璧だわ)
巧みな話術。美しい容姿。家柄も文句なく、自分でも稼いでいる。
だから、彼に憧れている女性は本当に多いだろうに。
(私、は……)
対するヘレナは、どうだろうか?
そう思ったものの、ヘレナの心の中には今までにない気持ちが、少しずつ芽生え膨らんでいた。
――ルーカスに、少しでも相応しくなりたい。
俯いてばかりの、地味な女じゃなくて。少しでもルーカスの隣に立って、認められるような女性になりたい。
そんな気持ちが確かに胸の中で膨らんでいて、主張をしていく。……出来るかどうかは、わからないが。
(でも、もう逃げるのは嫌……なの、かも)
ずっと、過去の言葉に囚われてきた。
他者の評価を過剰なまでに気にしてしまうようになった。
けれど……今後は、そういうことは必要以上に気にしない方向で行きたい。
ヘレナはそんなことを思いながら、ルーカスの言葉に自然と笑みを浮かべていた。
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