161人が本棚に入れています
本棚に追加
プロローグ
晴れ渡る青空の下、わたしは人生で2度目となるウェディングドレスに身を包み、式場の聖壇前で新たな夫となる彼と口づけをした。
ウェディングベルが鳴り響き、白い鳩が飛び立っていく。
誰もが礼装姿で祝福をする中、結婚式場の扉から外に出た彼とわたしは、フラワーシャワーを浴び、その幸せに表情を緩めて微笑み合った。
「おめでとう!」
「綺麗だよ!」
「幸せになってね!」
「ありがとう!」
喜びに満ちた友人や同僚たちからのかけ声に応えていると、ふと来賓たちの向こう側から、場違いな格好をした男性が遠巻きにこちらを見ている姿が視界に飛び込んできた。
元夫の白川冬彦だ。
背筋がぞわっと寒くなった。
一体何をしに来たのだろう?
悪い予感しかしない。
彼はグレーのよれたスウェット姿で無精髭を生やしていた。寝癖のついた茶髪を振り乱して家履きのサンダルをパタパタ鳴らしながら駆け寄って来ると、来賓の人混みを掻き分けて大声を張り上げた。
「結衣!!こんな結婚は間違ってる!!俺はおまえがいないとダメなんだ!!おまえも本当はまだ俺のことが好きなんだろ!?頼むからやり直してくれ!!」
来賓も式場のスタッフも一斉に静まり返り、冬彦に注目をした。
わたしの頭の中は真っ白になった。
何言ってるんだろ?この人。もう離婚しているから赤の他人なのに、本当はまだ俺のことが好きなんだろ?そんな訳ないじゃない。結婚式を邪魔しに来たの?
わたしは戸惑いと怒りを抑えながら冷静に努めて答えた。
「戻るなんて絶対に嫌です。あり得ません。どうぞお引き取りください」
「今までのことは謝る!!だからそんな意地を張るな!!今すぐ一緒に帰ろう!!な!?」
冬彦がわたしの腕を掴もうと手を伸ばした。わたしはとっさに「嫌!!」と悲鳴に似た声を上げて後ずさりをしていた。その瞬間、現夫の健太が冬彦の手を弾き飛ばし、わたしを守るように冬彦の前に立ち塞がった。
「私の妻に気安く触らないで頂きたい」
健太がそう言ったと同時に、式場のスタッフが冬彦を取り押さえた。
冬彦はわたしにすがるような視線を向けると「目を覚ませ!!」「おまえは欺されている!!」「おまえなんかをそんな金持ちの男が選ぶ訳ないだろ!!」などと暴言を吐きながら身体をくねらせ、足を踏ん張らせてスタッフに抵抗をした。
この人は最後の最後までなんてみっともないのだろう。わたしは呆れながらも現夫となった健太の隣りに立ち、見せつけるように腕を組むと、腹の底から声を出して言い放った。
「わたしはあなたを好きではありません。わたしが好きなのは、愛しているのは、今わたしの隣に立っている健太さんです。2度とわたしの前に現れないでください!!」
「なんだと!?俺がここまで言ってやってるのにその態度は何だ!?」
本性を現した冬彦は真っ赤な顔で怒声を上げながら式場のスタッフたちに門の外へと引きずられていった。
疲れから小さく吐息をついたわたしはそれを見つめながら、再婚をする前のことを思い出していた。
最初のコメントを投稿しよう!