白川結衣と憧れ

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白川結衣と憧れ

 子どもの頃に観たシンデレラや白雪姫のアニメを始め、少女漫画や恋愛映画などにおいて、恋愛と結婚は幸せの象徴であり、さもこの世で最も素晴らしいものであるかのように描かれていて、わたしはその幸せに憧れ続けてきたし、大人になればその幸せを手に入れることが出来ると信じて疑わなかった。  中学まではブスって理由でいじめられたこともあったけど、高校生になってからは陽キャの『翼ちゃん』と仲良くなったこともあって、いじめてくる人はいなくなった。恋愛映画のヒロインみたいな人生を送りたくて仕方なかったわたしは、高校を卒業したとき、18歳にもなって彼氏の1人も出来ないのは駄目だと奮起した。  大学生に上がる前の春休み中に、それまでに貯めたバイト代とお年玉とお小遣いの全てを使って、眼鏡をコンタクトにして髪も美容室で綺麗に染めてパーマもかけて、ファッション雑誌に載っている服やメイク道具を一式買った。  雑誌やネットに書かれている手順で、あるいは動画を観ながら、一重で小さな目を二重にして大きく見せたり、鼻を高く見せたり、そばかすを消したり、ひたすらメイクの勉強をし続けた。そうして地味顔を可愛く見せる方法を身に付けた。  鏡とにらめっこしながらメイクをしたり流行りの服で着飾ったりしているとき、わたしの頭の中には常に『翼ちゃん』の姿があった。  高校時代に陰キャのわたしなんかと仲良くしてくれた陽キャの翼ちゃん。  可愛くて明るくて優しくて、一群男子たちにモテモテだった彼女はわたしが夢見続けてきた恋愛映画のヒロインそのもので、憧れだった。  なれる訳なんてないのに、翼ちゃんみたいになりたくて、マニキュアはせずに爪を短く切って爪磨きで磨いて清潔に保ったり、雑誌から流行を取り入れながらも、翼ちゃんが好んで身に付けている、紺色やベージュなどの落ち着いた色味の服を選んだりして翼ちゃんの真似をした。  そして、その努力は実を結び、大学に入学すると男子に声をかけてもらえるようになっていた。  憧れだった翼ちゃんに近づけたような、映画のヒロインになれたような、そんな気がして、嬉しくて楽しくて全てがキラキラと輝いて見えて、念願の初彼が出来たときは有頂天になった。  けれども、それもつかの間、初彼には浮気をされてすぐに別れるはめになった。その後4人の男性とお付き合いをして、その中で1番優しくて『この人だ』って思える人に巡り会えて結婚をしたはずだった。なのに――。
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