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僕は仏壇から蝋燭と線香、ライター、数珠を準備し、肩掛け鞄を担いで玄関の扉を施錠した。振り向くと日向と小笠原さんが並んで歩いていた。小笠原さんを見上げる日向、日向を見下ろす小笠原さん、手の甲が触れる距離だった。
(ーーーなんだか、嫌だ)
それは従兄弟というよりも恋人同士と表現した方が似つかわしい。
(ーーー従兄弟、本当に従兄弟なの?)
小笠原さんの名前は 小笠原 健太、30歳で自家焙煎 小笠原珈琲店 の店主を務めている。大柄でがっしりとした体型、ヘアワックスで無造作に散らした黒髪、襟足は短く、顎には短い髭を蓄えていた。その存在感は大きく僕に伸し掛かった。
「理玖くんは後ろに乗って」
「はい」
日向は当然のように助手席に座りシートベルトを締めている。
「あ、健ちゃん、この交差点を右、右だよ、右!」
「ごめんごめん」
「もう!」
その時僕は見てしまった。ドリンクホルダーに置かれた日向の手に、小笠原さんの手のひらが自然に重ねられていた。日向はそれを振り払うでもなく何事もなかったように墓地への道順を説明していた。
(ーーーなんだ、なんなんだ、これ)
この時僕は直感した。日向が指すお得意さまは自家焙煎小笠原珈琲店、不倫相手は運転席でハンドルを握る小笠原健太だ。
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