347人が本棚に入れています
本棚に追加
/41ページ
僕は墓地という神聖な場所に相応しくない黒い感情を抱きつつ車を降りた。鬱蒼と繁る杉山を切り拓いた野田山墓地は急勾配の坂が続く。その坂道を登る僕の目の前には仲睦まじい二人が昔話に花を咲かせていた。
(はぁーーーーー)
疎外感に居た堪れない僕へと日向が振り返った。
「理玖、大丈夫?」
「なにが」
言葉に棘が刺さった。その無言の抵抗に日向は気付く事なく、僕が息を切らさずに坂道を登っている事に驚いていた。
「理玖、すごい!」
「なにが」
「いつもは歩けないのに!」
そうだ。彼岸の墓参りでは日向に背中を押して貰わないとこの坂を登る事は出来なかった。ところがオレンジの封筒が届き日向の背中を追うようになり、僕の身体つきは少しずつ変化し体力も回復しつつある。
「すごい!」
日向に褒められれば褒められるほど僕は恥ずかしくなった。それどころか小笠原さんの口元が歪み笑われたような気すらした。
「すごくないよ」
「そんな事ないよ」
「もう、日が暮れるから早く行こう!」
杉の木立に太陽が沈みかけていた。つい、口調が強くなった僕を見た日向の表情は逆光で分からなかったが寂しげだった。
(ーーーしまった!)
気まずい雰囲気が漂った。小笠原さんは日向の肩を叩くと「行こう」と低く落ち着いた声で語りかけて坂を登り始めた。
最初のコメントを投稿しよう!