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彼女の名前は明日香。18歳。今をときめくトップアイドルグループ『ラ・フルール』の一員だ。
きらびやかな衣装に身を包み、ステージ上で踊り、歌い、愛を叫ぶ。ありとあらゆる人の視線を釘付けにし、どんなに悲しい顔をした人もたちまち笑顔にさせてしまう。それがラ・フルールだ。
明日香はそんなラ・フルールに自信と誇りを持っていた。幼い頃に見たアイドルへの憧憬はいまだに揺らぐことはなく、血の滲むような努力と天性の才覚でラ・フルールの中でも絶大の人気を勝ち得ていた。
そして、今日は尊敬する先輩アイドル、不動のセンターこと澪の卒業ライブだ。スタジアムの会場は超満員。誰もが澪の最後の晴れ姿を見ようと駆け付けていた。
そして、ライブも終盤に差し掛かり、いよいよ澪が最後の挨拶をする場面となった。メンバーの中には涙を流す者もいる。明日香もそのひとりだ。
「——最後になったけど、みんなありがとう。本当に、本当に大好きですっ!」
割れんばかりの拍手と喝采。誰もが澪の新たなる門出を惜しみつつも祝福していた。
「あと、大事なことも決めなきゃね。ラ・フルールの新センターとしてみんなを引っ張っていくのは!」
澪は泣きながらマイクを明日香に手渡した。
「明日香です!」
明日香はゆっくりとマイクを受け取る。この流れはリハーサルでも練習した。だから、驚きはない。しかし、感動はひとしおだ。
何といっても、日本で一番のアイドルのセンターとして選ばれたのだから。
明日香の人生にとって何もかもがこの夢を叶えるためにあった。いや、この時のために生まれたといっても過言ではない。
「澪先輩。ありがとう!」
今が人生の最高潮だ。
ここからはリハーサルでは練習していない。
だから、決して失敗してはいけない。
「私、明日香は! ラ・フルールの永遠のセンターになります!」
そう叫んで、明日香は衣装の中に隠していたピストルを頭にあてがい、引き金を引いた。
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