![5b854f85-ff93-4ad0-b16d-714998a75e8c](https://img.estar.jp/public/user_upload/5b854f85-ff93-4ad0-b16d-714998a75e8c.jpg?width=800&format=jpg)
「悪魔よ、退け!」と聖人が叫ぶと、
今にも襲いかかりそうだった魔物は消え
失せ、
垂れこめていた恐ろしい黒雲も引いていきました。
物陰に隠れていた人々はただ感心して、
その光景を見守るばかりです。
かつて私は各所で、そんな舞台を演じていました。
しかし、心の中ではこう思っていたのです。
「この銀河系には、皆さんよりも
進歩した種族が数多くいます。
私は彼女達を統治する星間帝国のために、
貴方達の文明発展を助ける仕事をしています。
でも、ご免なさい。 今はまだ、
そのことをお知らせできないのです……」と。
![4be8c559-6811-4b5c-aa9d-572b8b4a5bb2](https://img.estar.jp/public/user_upload/4be8c559-6811-4b5c-aa9d-572b8b4a5bb2.jpg?width=800&format=jpg)
文明とは、高度な技術を伴う生活様式です。
技術は私達に大きな力を与えますが、
それは
両刃の
剣でもあります。
それまで、古き先進種族と突然に出会った
若き発展途上種族は、遥かに進んだ文明を前に、
過剰依存や
意気阻喪、あるいは
突然得られた高度な技術の悪用・誤用や副作用から
衰退・自滅してしまうことが多かったのです。
そこで私は、皆様の目から私達の存在を隠して、
秘密裏に観察・支援する方法を考えました。
特に「全能なる神は善き人々を救う」という神話は、
人々の心を癒し、救いを与える文化活動であると共に、
社会を健全に保つ政策を助ける、優れた社会技術でした。
それは知的種族が
抱く限りない想像力や欲求を満たしつつ、
それらが速く育ちすぎないよう社会のために制御して、
初期文明の発展を支援するのに大きく貢献したのです。
![395d7871-16da-4f11-9486-3ec7d33e3389](https://img.estar.jp/public/user_upload/395d7871-16da-4f11-9486-3ec7d33e3389.jpg?width=800&format=jpg)
何しろ帝国の最先進段階にある種族達は、
全ての人々の人格を量子頭脳網に
転移しています。
そうした種族は
膨大な演算能力や共有人格形成能力を得て、
種族全体が帝国の様々な役職を務められます。
また、個々の人格が量子頭脳に宿って母星外に
赴き、
様々な生物・機械工学的身体に人格を
再転移して、
自由自在に活動することもできるのです。
様々な星で神話を広めるために天使や聖人、
悪魔や怪物を演じるのは
容易いことでした。
![371fd878-9a37-4848-91b5-4db2d0d5403f](https://img.estar.jp/public/user_upload/371fd878-9a37-4848-91b5-4db2d0d5403f.jpg?width=800&format=jpg)
後に私は、若き種族が帝国と公式に接触したとき
皇帝種族が支持を得やすいよう、配慮も加えました。
偉大なる皇帝種族のような性格の神を中心に、
他の様々な種族に地位や外見が似た天使や悪魔が
登場する神話を、作って用いるようにしたのです。
皇帝種族は
峻厳ながら
慈愛に
溢れ、
見識の高い種族でした。
その昔、近隣恒星の新星化により滅びかけた
私の種族を救ったのは、
すでに多くの種族を率いて星間帝国を建設しつつある、
彼女だったのです。
![8d07c805-c1f2-4ec8-8712-21eb984b1b49](https://img.estar.jp/public/user_upload/8d07c805-c1f2-4ec8-8712-21eb984b1b49.jpg?width=800&format=jpg)
彼女は銀河統一後の平和社会建設を念頭に、
肉体的にも性格的にも戦士には不向きな
その種族を助けました。
そして帝国の公用語で〝逆境に抗う者〟
〝滅びを拒む者〟という意味の名称さえ与えて、
私達の生存と帝国への加盟を祝福してくれたのです。
私の種族は彼女の先見的・人道的な配慮に心を打たれ、
その恩義に報いるべく民生分野での貢献を希望しました。
そして途上種族の支援に力を尽くした結果、
私自身もこうして
人格の量子化を認められ、
文明開発長官の地位を得ることができました。
![5756b491-ff02-4371-81b7-47cab0df3e35](https://img.estar.jp/public/user_upload/5756b491-ff02-4371-81b7-47cab0df3e35.jpg?width=800&format=jpg)
しかし、そんな帝国にも問題はありました。
国家建設に功績のあった軍事種族の増加が止まらず、
特に皇帝種族の側近団をなす〝中枢種族〟達が、
領土拡大の停止と共に、腐敗と抗争に陥ったのです。
帝国政府は軍事技術による銀河統一に専心する余り、
経済・社会活動を健全に保つための利害調整や、
それに必要な人々の向上、政府組織の改革といった、
新政策の導入に失敗してしまったのでした。
![ddfa41a3-fc0d-43cb-bc20-864fe993302d](https://img.estar.jp/public/user_upload/ddfa41a3-fc0d-43cb-bc20-864fe993302d.jpg?width=800&format=jpg)
中枢種族は新興の産業・技術種族に不法な要求を行い、
統一戦争に敗れて以来、発展を制限されてきた
銀河系外周の種族からも、資源を奪い続けました。
それに加えて彼女達は、
未来ある種族達を自らの
傘下に収めようと、
私達の支援計画にも非人道的な干渉を加えました。
力を増した中枢種族の一部はさらに、
皇帝種族を
傀儡化し、帝国の実権を
掌握するに
至ります。
そして
遂には相互の内戦を引き起こし、
皇帝種族を初め多くの種族を滅ぼして、
帝国を崩壊させてしまったのです。
![73c08234-0d01-4084-bc81-50eae70481a5](https://img.estar.jp/public/user_upload/73c08234-0d01-4084-bc81-50eae70481a5.jpg?width=800&format=jpg)
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