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都市伝説
「育児ノイローゼになった母親は眠っているまだ幼い双子の娘と息子の首を絞めて殺した後、自らも首を吊って死んだらしい。その母親の霊が出るのが…」
ヒロアキは言うと腕を伸ばし、カーテンを少しだけ開けると向かいのマンションを指差した。
皆んなはヒロアキの指した方を見つめた。
「あのマンションの406号室だよ」
深夜というにはまだ少し早い時間なのに、その指されたマンションは一つの明かりも点っていなかった。
ヒロアキはカーテンを掴んでいた腕を下ろし、皆が囲んだ丸テーブルの中央にある蝋燭の炎へ顔を近づけた。
「一階はコンビニやクリーニング店やサイゼも入っているからこの辺りじゃ人気のマンションらしいんだけど、406号室を借りた住人はひと月もしないうちに引っ越すんだと。
特に夫婦とか家族連れが入居したら決まって旦那の方が徐々にマンションへ近寄り難くなって帰って来なくなるんだ。噂ではその母親の霊が、玄関口で自分が殺した2人の子供を抱き抱え、旦那の帰宅を待ち続けているかららしい」
そう言ってヒロアキはいきなり蝋燭の炎を吹き消した。
「ちょっ!バカ、うわっ!何やってん、びびったぁぁ」
俺を含めた3人がヒロアキのせいで一斉に声を上げてしまった。
「あはははは。お前らビビり過ぎっ」
バンバンと床を叩きながらヒロアキが笑い転げる。まだ暗闇を見慣れいない目でも、ありありとその光景を見ることが出来た。
「ミツキ、明かりつけろって」
ユウタが言った。
「駄目駄目!やめろ。まだミツキの話が終わってないだろ」
ヒロアキの言葉で起き上がりかけた俺は思わず動きを止めた。
「テツオ、ライターある?」
「あ、あるよ」
テツオがライターをつけた。蝋燭に近づけ火をつける。
蝋燭の火が灯ると自然と全員が煙草を吸い始めた。ヒロアキとユウタは電子タバコでテツオと俺は紙タバコだ。
2本の紫煙が天井へと昇って行く。
「あー動画撮っとけば良かったわ」
さっきの驚いた俺達3人をヒロアキはからかっているのだ。
「さっきの話なんだけど。やっぱ旦那が浮気していなくなったのかな」
こういう心霊話や都市伝説的な話は、終わった時点でそれ以上考察はしない方が怖くて面白いのだが、テツオはいつも自分が気になる事を聞いて来る。
テツオ曰く1人の時に思い出した時、どうしても考えてしまい眠れなくなるらしかった。
それが嫌でどうしても聞きたくなるらしかった。
「ま、旦那が帰ってくるのを待ってんだから、そうじゃねーの」
ユウタが又かよという風に言った。
「そっな。やっぱそうだよな」
テツオが言った。
テツオが煙草を揉み消す。俺も最後の一口を吸い終わると煙草を灰皿に押し付けた。
「なら、次はミツキの番な」
ヒロアキの言葉で俺は軽く咳払いをした。
ぬるくなった缶ビールを一口飲んで口の中を潤した。
「知ってると思うけど口裂け女っているじゃん?」
「あぁ」
全員が、口裂け女の話?みたいに面倒くさげに口を揃えて言った。
「でも、実は口裂け女には弟がいたって話は知らないだろう?」
僅かだが全員の身体が蝋燭のあるテーブルの方へ身を乗り出した。
「知らねーな」
ヒロアキが言った。
「今からその弟の話をしてやるよ」
全員が俺に注目した。
「口裂け女には3つ下の弟がいた。その弟は産まれた時から大きく口が裂けていて、その頃はまだ口が裂けていなかった姉の口裂け女は、弟がそんな顔で、産まれてきた事を凄く悲しんだ。
だからまだ産まれてまもないな赤ちゃんの弟の大きく裂けた口を針と糸を使い縫ってやった。
姉の口裂け女もまだ幼かったから、当然、裂けた口を上手く縫えやしなかった。
麻酔もないわけだし、痛がり泣きじゃくる弟をあやしたりなだめたり、時に叩いたりしながら、何度も何度も何度も何度も縫っては失敗を繰り返した。
抜糸しては又、抜糸して又、縫い直すと言った事を繰り返した。
口裂け女が弟の口を上手く縫えたと思ったのは、弟が小1になった頃だった。
それでも赤ちゃんの頃から何百回と縫われた頬は傷だらけだし、頬肉はあちこちが抉られていて歪な形に変形していた。
それでも裂けていた口は縫合によって閉じられはしていたけど、一つだけ問題があった。それは姉である口裂け女が弟の唇まで縫ってしまっていた事だった。
弟の口が再び裂けないようにと配慮したのかはわからないけど、そのせいで弟は口すらまともに開く事が出来なくなっていたんだ。
ギリギリストローが咥えられる程度にしか開かないその口の事で、弟は学校でからかわれ、いつしかいじめらるようになった。
弟はその事を姉である口裂け女に話した。ほとんど口が開けない弟の話す言葉は犬が唸り声を上げているようにしか聞こえなかった。けど姉の口裂け女は辛抱強く弟の話を聞いた。勿論、弟の為と思い自分が縫った口だから、抜糸する事も考えなくもなかった。姉の口裂け女も悩んだが、裂けた口はやはりグロテスクでそれだともっといじめらると考え、絶対に抜糸をする事はしなかった。姉も最初は弟の話す言葉が、中々聞き取れなかった。だがいつしか慣れると、弟が学校で何と呼ばれているか知ることとなった」
一気にここまで話すと俺は一息ついた。タバコを掴み火をつける。3人は何も言わず黙って俺を見返していた。
「何て言われてたんだ?」
ヒロアキが言った。俺が間を作ったのが我慢出来なかったようだ。
「口縫い男」
「まんまだな」
ユウタが言う。
「そこまではわかったからさ。その先の口縫い男はどうなったわけ?」
「姉の口裂け女の口が何故裂けたのか知らないけど、私、キレイ?って尋ねてキレイだと答えたらマスクを外して又、尋ねるんだったよな?でキレイじゃないって言ったら、包丁や鎌で襲われる、そうだよな?」
ユウタが付け足すように一気に話した。
俺はユウタの問いには答えなかった。
「ことの始まりは10数年後の事だ。最初の目撃情報は埼玉県狭山市だった。塾帰りの小学生達を遠くから眺めるマスクと黒縁メガネをかけたコートを羽織った大柄な男がいた。少しずつ歩みを早め、小学生達に近づいた。口縫い男がその小学生達を追い抜くと、道を塞ぐように立ち塞がった。
そして口縫い男は言ったんだ」
ヒロアキがオチがわかっという風にニヤけ出した。テツオとユウタは俺を見ている。蝋燭の炎に照らされた、頬が熱を帯びて行くのが感じられた。まぁ、2人だけでも気づいてないならいいか。俺が口を開こうとしたその時
「モゴモゴ言って何言ってるかわからねーんだろ?それを小学生達が君悪がってだな…」
「もう、ヒロアキー」
テツオが言った。
「ま、最初はそうだ。だけど言葉が聞き取れなかった小学生はおじさん何?と尋ねた。
すると口縫い男はマスクを取り、姉である口裂け女に縫われた口を見せ、もう一度言ったんだ」
ヒロアキが電子タバコを吸い始めた。どうやら飽きたらしい。
「無残な程の傷を見て小学生達は悲鳴を上げて、来た道へと駆け出した。口縫い男は直ぐに追いかけ1人の小学生を捕まえた。そしてその小学生を地面に押し倒し首を押さえつけ、胸ポケットから大きな返しがついた太い釣り針と糸を使いその小学生の唇から耳にかけて縫っていった」
「縫われた理由は口縫い男が言った言葉を小学生達が理解出来なかったからだ」
「ミツキ、何だよそれ。つまんねー口裂け女みたいに殺したりしねーのか」
ヒロアキは立ち上がり部屋の明かりを付けた。
「つかさ。ミツキお前、思いつきで喋っただろ?」
「あ、何?バレてた?」
俺は笑った。
「話の途中から怪しいとは思ったわー」
ユウタが言う。多分嘘だろう。
「で。その後は?」
テツオだ。
「お前、ヒロアキの言ったの聞いてなかったのか?俺は適当に思いついた事を喋ってただけだから、次なんてねーよ」
「あ、そうなんだ」
「そう」
ユウタが言った。
「それが、あるんだよ」
「あるのかよ」
ヒロアキが言った。
「口縫い男が言ったのは、「抜いて」だったんだ。縫われた糸を取って欲しかったんだ。だけど言ってる言葉がわからなかった小学生に腹が立ち口縫い男は同じ目に合わせた。けど、怖いのはここからなんだ。口縫い男の言った言葉を理解した子供が縫われた糸を取ってやると、いきなり口裂け女が現れてその子供の首を包丁で突き刺すんだよ。何故なら、糸を取ると惨たらしい男に戻ってしまう。自分の弟がそんな風な容姿なって欲しくないから、口裂け女は糸を取ろうとする子供を殺すんだ」
「無茶苦茶じゃねーの」
「普通、そこで口裂け女出すか?」
ユウタとヒロアキだった。テツオは黙っている。
そのテツオが口を開いた。
「でも、考えてみたら、口縫い男の方が、怖くない?」
「どうしただよ?」
ユウタだ。
「だってさ。言葉がわからないままだと捕まえられて口を縫われる訳じゃない?わかったらわかったで、口裂け女が現れて殺されるじゃん?
無事に助かる方法が無いだろ?より口裂け女より怖いじゃん」
「かもだけどな、テツオ、ミツキのヤツ、口裂け女を出したのも、ただの思いつきだぞ?むりくり怖くしようとして、口裂け女を出しただけだ」
「それはわかってるけどさ…」
「はい、終わり終わり。トリをミツキにすべきじゃなかったな」
ヒロアキが笑った。
「ぐだぐだで悪かったな」
「お前、いつもそうじゃん」
ユウタも笑った。
「さ、遅いからそろそろ帰ろうぜ」
ヒロアキとユウタ、テツオについて外に出た。少し距離があるがコンビニにがある場所まで3人を送っていった。俺は3人の姿が見えなくなると踵を返しコンビニに入りアイスやカップ麺、適当な食材を買って出た。しばらく行くと前からかなり身体の大きな人が歩いて来ている。夏だと言うのにトレンチコートみたいな物を羽織っていた。近づくにつれ、そいつが何呟いている事に気づいた。
やばい奴だと思った俺は出来るだけ距離を取ろうと歩道の端を歩いた。側まで来るといきなりそいつが俺の前に立ちはだかった。
2メートルはありそうな男だった。深夜だというのにサングラスにマスクをしていた。
やばいなと感じながらも、すいませんといい横を通り抜けようとしたその時、ふと思い出した。
男の姿はつい数分前に俺が話した口縫い男のそれだった。そいつがぶつぶつ言っていた言葉が少しだけ聞き取れた。
「抜いて」だった。まさかと思った。さっき話した作り話が本当に起きたのか?と焦った。
その為か思わず俺は「抜いて?」と返してしまった。
トレンチコートを着た大男はいきなり俺の両肩を掴むと電柱の陰へと押しやった。電柱に俺を押し付けてた。抗おうとしたが力が強すぎて駄目だった。大男は突然、マスクを外した。マジか!と思った。家がある方向から車が走り抜けた。大男の、いや、口縫い男の顔がライトに照らし出された。大男は団子っ鼻でとても小さな口を持っていた。おちょぼ口だった。その口が開く。
「抜いたげる」
いうが早く大男は俺のジャージをズラしチンコを摘み出した。おちょぼ口から蛇のように舌が這い出て俺は直ぐに勃起した。勃起した俺のチンコを大男のおちょぼ口が咥えた。ジュルりとされた瞬間、俺はイッてしまった…
「抜いてあげたわよ」
俺のチンコから大量に出た精子を飲み込んだ後、大男がサングラスを外して言った。
「お兄さん、とってもカワイイわね」
いや、あの、そういう意味で抜いてって言ったわけじゃ、俺の言葉にはクエスチョンマークついてたでしょ?
ヒロアキ、ユウタ、テツオ、なぁ。口縫い男は、あ、違う、口で抜いてくれる男が、
略して「口抜い男」は存在している。
都市伝説なんかじゃない。本当にいるんだ。
だって口抜い男は、まだピクンピクンとしてる俺のチンコを又、口に含んで…
終わり
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