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「ライディアーラ様。1つ目の願いです。美味しい食事を作って下さい」  呼ぶわけないだろ。早々に帰ってもらう為、すぐに実行できる願いを言う。それにお腹も減っているし。 「お前は王子である私が食事の用意を出来るとでも思っているのか?」  王子、使えねぇ! 家事全般は願い事から除外しなければならなくなり、すぐに帰ってもらう計画が早くも崩れ去った。 「俺はお腹が空きました。俺が作るからその辺に座って待ってて下さい。あと、靴は脱いでください」  玄関を指して靴を置きに行かせる。戻ってきたライディアーラ様は座る場所を探しているのかキョロキョロと辺りを見渡した。 「座るってどこにだ? この家には椅子がないぞ」 「カーペットの上にそのまま座るんですよ。そこにテーブルが見えますよね? そこで食事をするんです」 「……これがテーブル? 城の物とは随分違うな」  城と1LDKを一緒にしないで欲しい。  ライディアーラ様は恐る恐るカーペットの上に座った。そんなに汚くはないはず。  俺はキッチンで料理を作り始めた。初めて2人分の食事を用意する。誰かと食べるのはいつぶりだろうか。  焼きそばを作った。王子に焼きそばを出していいものか、と一瞬ちらついたが、それくらいしか作れるものがなかった。食べられないよりマシだろう。  テーブルに箸と焼きそばを並べる。箸を両手に1本ずつドラムスティックのように持ちだしたから、フォークを急いで持ってくる。それでどうやって食べるつもりなのだろうか? 「いただきます」  手を合わせると、ライディアーラ様も手を合わせて、いただきます、と言う。 「箸は知らないのに、いただきます、は一緒なんですか?」 「いや、潮の食事作法に則っただけだ。少しでもお前を理解したいからな」  箸で焼きそばを掴んで啜ると、真似をしようとするから持ち方を教える。プルプルと手を震わせて掴み、口に入れる直前で焼きそばは皿に戻った。その絶望したような表情がおかしかった。  フォークを差し出すと素直に受け取る。パスタのようにくるくる巻いて口に入れた。 「美味いな! 潮の職業はシェフか?」 「えっ? 全然違いますよ」 「こんなに美味いのにか?」 「城のシェフに泣かれますよ。これをそんなに褒めたら」 「城の料理も美味いのだが、これは特別というか……。そうか、潮が私のために作ったから特別に美味いと思うのかもしれないな」  本当に柔らかく笑うから、ドキッと心臓が跳ねた。 「シェフは私のためだけに作るわけではない。私のために作ってくれるのがこんなに喜ばしい事だとは思わなかった。ありがとう、潮」  全部目分量で適当に作った焼きそばにそこまで言われて申し訳ない気持ちになる。次はもっときちんと作ろう。……って、次って何だ! 何でまた俺が作らなきゃならないんだ。自分の思考が理解できない。  美味い美味い、と言いながらライディアーラ様は完食した。食後も俺を真似て手を合わせ、ごちそうさま、の挨拶をする。
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