[短編] 「それって全部”元カノの好きなこと”ですよね」

II

＊

　そもそも。元カノの匂いがする男にロクな男はいない。

（それは、私が一番よく知ってるから）

　私が大学に入って初めて付き合った年上の男がそういう男だった。付き合ったのは一週間きっちり。元カノと一緒に買いに行った服を着て、元カノからの誕プレの腕時計を後生大事に着けていた。

　“それ、センス良いね！”って褒めたやつが全部元カノチョイスだったときの私の気持ちがわかる？　私が付き合ってるのは名前も顔も知らない元カノの方なんじゃないかってくらい、彼の「カッコいい」は元カノがあつらえたものだった。

　そこまで人の「人生」に他人を踏み込ませておいて別れるなんてなんなの？って感じ。

　案の定、別れ際のセリフは元カノが忘れられないからやっぱりゴメン、で。

「……。」

　そいつの苗字もまた村井だったことを思い出す。どうして村井にはクソしか居ないのか。付き合った期間が短すぎて茉莉絵には元カレが居たことすら報告していない。

（......茉莉絵にはこれ以上傷ついてほしくない）

　今、私に出来ることは村井健斗を締め上げることだけ。