オタクと陰キャのプチ物語

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 後崎邦太郎は貧乏だった。いや、彼というよりも邦太郎の家がド貧乏だった。邦太郎の父親は善良な人間で親友の連帯保証人になり、とんずらされている。親友の借金返済のために、あくせく働いていた。愛想をつかした母親は邦太郎が13歳の時に妹を連れて家を出た。それからずっと父親と二人で暮らしていた。中学時代は学校が終わると夕刊の新聞配達を行い、高校は近くの公立高校を選んだ。邦太郎はそこそこ頭がいいのでもう少し上位の高校にも行けたのだが、家から近いチャリ範囲で通える普通の高校に決めた。交通費が勿体ない。私立高校なんて金がない。授業料無償化でも入学金や制服代、修学旅行費用等は無償化の対象ではない。邦太郎の世帯は生活保護世帯や住民税非課税世帯ではない。就学援助制度の対象にならなかった。制服代などは自分で稼いだ金で購入した。高校生になってからはラーメン屋でバイトをしていた。  修学旅行には行くつもりはない。少しでも貯蓄をしなければならなかった。いや、結局生活費に消えてしまうのだが。  父親は一体どれだけの金額を肩代わりしたのか……。邦太郎は恐ろしくて聞き出すことができないでいた。
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