オタクと陰キャのプチ物語

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「…氏……後崎氏」  邦太郎の背中を指先でつつきながら後ろから呼び掛けた。邦太郎はゆっくりと振り向き、声を発した人物に目を向けた。 「渡辺君」 「さっきから何回も呼んだんだけど、どうかしたのかい?後崎氏」    眼鏡のブリッジを指で持ち上げながら、邦太郎の友達、渡辺一郎が話しかけた。 「あっ、そうなんだ。気づかなくてごめんね。どうしたの?」 「……今日はバイトが休みだと聞いていたが。僕と一緒に帰れるだろうか」 「うん。一緒に帰ろうか」  邦太郎が笑顔を浮かべながら一郎に返事をした。その笑顔を見た一郎は照れながら視線を逸らした。眼鏡を掛けてるうえに、黒髪の前髪も眼鏡が隠れる程長い。顔を赤くした一郎に邦太郎は気づいていなかった。 「……なんか、女子が推谷灯也の話をしてた。あっ、ほら俳優の…」 (芸能人なんか全く興味がないけど、椎名灯也はイケメンだと思う。切れ長な目が色っぽいというか……。さっき女子が高校生って言ってたな、俺と同年代とか人生の差がありすぎだろ。どんだけ前世で得を積んだんだよ) 「俳優?興味あるの?後崎氏」 「いや、特には…」 「そうだよね。僕は取り敢えず二次元の人物しか興味がないから」  そう言って、読んでいたラノベに目を向けた。 「今ハマっているのは、『魔法を使ってお仕置きよ!』の続編。主人公のプリンちゃんの魔法がパワーアップしてチートぶりが更にすごすぎてヤバヤバなんですよ。むはは」 「そ……そうなんだ」 「後崎氏にも後で貸してあげるからね」 「……ありがとう」  正直、邦太郎はラノベやアニメ等にも全く興味がなかった。理由は日々の生活が忙しすぎて観る暇がないからだ。だが、一郎は親切心?でいつも漫画や小説を邦太郎に貸し出していた。父親譲りの心優しい邦太郎は断れない。頑張ってバイトや家事、勉強の合間を縫って読み倒していた。 「この間の妖怪スペクタルシリーズは最高だったでしょ」 「…ああ、うん。最後妖怪が宇宙人に完全敗北したやつ?」 「あれも続編出たんだよね」 「へ?」 「妖怪に支配された地球が宇宙人に乗っ取られて終わったでしょ?で、続編では人類最強のウルトラヒーローが突如現れて、超必殺技のハイパーゼロ・アメージングキラメキアタックで宇宙人をやっつけて地球を奪還して結局人類が完全勝利って内容なんだよね……あっ」 「へぇ~、どうしたの?渡辺君」 「ネタバレしてしまった」 「……大丈夫だよ。俺、気にしないから」  寧ろ、これで読まずにすんだ。感想を言わなくていいと思った邦太郎は安堵した。 「まあ、いいか。明日持ってくるからさ、読み終わったら語り合おうね」 「え?あっ、…うん」  すると休み時間の終わりを知らせるチャイムが鳴った。  
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