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小学生の時、後崎邦太郎は友達が多かった。顔も決して悪くない。明るく人気者で女子にもモテた。だが、中学に上がって直ぐ父親が保証人になってから人生が一変した。家事や新聞配達と忙しくて友達と遊ぶ暇など無かった。そして徐々に荒んでいき会話をすることもなく周りに人が居なくなっていた。高校生になっても友達を作らずに、いつも一人で席に座っていた。
そして二年に進級してからクラス替えがあった。その時、偶然後ろの席に渡辺一郎が座っていた。
新学期、みんな席に座り担任を待っていた。周りは直ぐに溶け込んだのか、ワイワイと騒がしく盛り上がっている。邦太郎は疲れているということもあり、机に顔を伏せようとした。その時、後ろから背中をつんつんとつつかれた。いきなりつつかれ吃驚したが、戸惑いながら振り返った。後ろの席には、眼鏡で前髪が長く、黒の学ランの首元をしっかりとホックで留めていて、如何にもオタク臭を醸し出してる人物が座っていた。
「……あっ、な…に?」
若干引き気味で邦太郎は問いかけた。座っていても背が高いのが良く分かる。
すると、背の高い人物は―――
「君から僕と同じシンパシーを感じる。異世界モノが僕は好きかな。因みに僕の最推しは、ラノベの『魔法を使ってお仕置きよ!』のプリンちゃんなのだが、君の最推しは誰かな?」
眼鏡のブリッジを持ち上げながら問いかけられた。数秒、邦太郎はフリーズしてしまった。
「……あ、あの、ごめん、少し……分からないかもしれない」
「むむ?推しが多すぎて選べないのか?しかもプリンちゃんを知らないとは……君はかなり人生を損しているな。仕方がない。僕が色々教えてあげよう。僕と友達になるといい」
「……えっ?……あっ」
「僕の名前は渡辺一郎と言う。君の名前は?」
「……後崎邦太郎」
「後崎邦太郎……なんか、明治時代か大正時代にいた人物みたいな名前だな」
「え?……自分でも気に入ってないよ。こんな名前」
「!?なんと。至極カッコいい名前じゃないか。羨ましい。世の中の後崎邦太郎さんに失礼だぞ」
「え?」
「これからよろしくね。後崎氏」
一郎が手を差し伸べた。
「……後崎氏って」
氏ってなんだよと思ったが、邦太郎は一郎の手を握り返した。
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