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「……嵐くん。いつ〈観ても〉可愛いわぁ……。ふふふっ」
本日。人生で最悪な冬至を迎えた、日本国内にて。目の前にいる女に、呪われるとは夢にも思わなかった。
◇◇◇
俺の名前は《猿堂 陽介》。独身。
先月まで、【厄徐師】で海外出張していた。理由は、《英語を話せる凄い人を日本に居させるのは勿体無い》と誰かが推薦してくれたらしい。
(俺、これでも猿堂家厄除師現当主なんだけどなぁ……。逆に日本から離れたらマズいんじゃね?)
と思いつつも、乗り気無いまま飛行機で向かったのだ。
それから数年間。
俺にとって、アメリカは刺激が強い国だった。良い意味でも悪い意味でも。
おかげで毎日がハードスケジュールで、ほぼ休みがゼロだ!最近、不眠が多い現状である。マジで辛い以外何もない。
そんな状況下の中、勇逸のオアシスが〈この画像達〉!!俺の親友である《神龍時 嵐》って言うKY野郎から貰った数枚の画像を視界に入れる。
体育祭時のブルマ姿、文化祭時のコスプレ喫茶のナース服、セーラー服姿、普段の私服姿、新社会人時のリクルート姿、今のお勤め先のリラクゼーションの制服姿、不本意だが……羊谷のペチャパイ下品女と丑崎と一緒に海へ遊びに行った時の水着姿などの画像達。
それらの画像に写っているのは、五歳歳下の俺の大切な人。嵐の妹の《風羅ちゃん》。
そう……。俺は、この子に片思いをしている。
嵐から「俺ら、六つ子だから」と紹介された瞬間、世界が変わった。目の前の景色が澄んだ空気に変わり、俺の周りが光輝いて潤ったのだ。
***
風羅ちゃんと出会う前は、猿堂家厄除師当主として仮面を被って誰にでも好かれるために、社会に溶け込むために生きてきた。これも、代々当主達がしてきたお役目を果たすためにだ……。
そんな日常化していたある時。アイツに、神龍時 嵐と出会った。
その時は、「最年少で厄除師試験に合格した子だから、色々教えてあげて欲しい。頼むよ、陽介」と、公主である社長から直々に指名された俺。これは、自分を売り込むチャンスだと思った。
嵐の厄除師初シゴトのサポートもとい教育係で<厄払い>をしに派遣先へ向かった。その時は、いつものように見習いには、最低限の事を教えつつ爽やかな良い人アピールしとけばいいや、という軽い気持ちで一緒にシゴトしに行った。……のが、間違いだった。
簡単に伝えると、今まで会った見習いで。
嵐は ”規格外”のヤツだった……。
もう、それは悪い意味で!本来、見習いって先輩のいう事を聞いて学ぶもんだろう!?ましてや、勤務初日なんて。
それを、指示を出して五分後に単独行動するかッ!?普通??
「猿堂さん、猿堂さん!コレ拾ったんですけど、食えますかね??」
やっと、戻ってきたと思ったら、両腕いっぱいにドぎつい色をしたキノコ達。
拾ってきた理由を聞いてみると、厄がなかなか見つからないから夕飯で俺と鍋パーティーしようと拾ってきたらしい……。あまりにもクレイジーすぎて、絶句してしまった。
「━━ッ、バカなのッッ!!お前!!!!どう見ても、毒キノコじゃねーかYOッッ!!というか、今シゴト中だRO!?」
有り得ない行動に、思わずひっぱたいてしまった。にも、関わらず嵐の野郎は何を言ってんだ、コイツ……、という顔でジト目してくる。
「……猿堂パイセン。アンタ、料理した事無いでしょ?
あのですね、〈煮沸消毒〉っていうのをすれば大抵のモンは食えるんですよ。だから、問題無いですよ!というかアンタ。俺より人生の先輩ですから料理の基礎を学んだ方が良いっすよ……」
「ーーーんな訳、ねーだROッッ!?
毒キノコを煮沸消毒して食えんなら、毎年毒キノコの誤食で死者出ねぇからッ!!そんな事で通用するなら普通に、スーパーで売っているからッッ!!本ッッーー当ッッ、に馬鹿だろッッ!?お前!!!!」
唖然を通り越して、素が出てしまい思わず拳骨してしまう。もう、常識がぶっ飛んでるクレイジー脳みそ野郎に、メンタル疲労で体力が半分消耗してしまう。
それ以外にも、イレギュラーが多発した。厄の処理でイレギュラーがあるのは、日常の一部だから良しとする。厄除師のシゴトは死と隣合わせだし、仕方ないことだ。
俺の知っている限りだと年間国内で、五十人以上が殉職している現状。生き残っているのは、経験豊富のベテランか、ただ運のいい奴ぐらいだ。
だけど!だけどさー、イレギュラーの原因が〈神龍時 嵐〉ときたものだ。
コイツだよ、コイツッ!!このトラブルメーカー!!
自分で言うのもなんだけど……、さすがの〈良い人キャンペーン〉をしていた俺はブチ切れてしまった。その後、なんとか終わらせたシゴトの報告に、社長に厄除師研修対象の除外依頼を伝えようと決意する。
(協調性が無い以前に、社会不適合者だよ!!このKY野郎。どういう教育してんだ!?神龍時現当主はYO!?)
その前にクレイジー野郎の家族に、クレームと今回のシゴトで厄除師の除外の件を上司に報告をすることを穏便に伝えなければならない。今は複雑な社会になっているから、逆恨みでもされたら面倒だから、というのが本音だ。
嵐の自宅に到着し、呼び鈴を押して出てきた相手。それが、━━━風羅ちゃんだ。
***
あの一目惚れの初体験をした三年前……。この気持ちは今でも変わらない。
そんな中、うちの社長である【公主様】から連絡が来た。用件を聞いてみると、〈日本に戻ってきてシゴトして欲しい〉という事だ。
詳細を聞いてみると、
「三カ月後に、新人の《厄徐師》の補助と〈仮の夫婦〉として数ヶ月同棲して欲しいんだけど……、できそうかい?陽介」
との事。それを聞いた瞬間。
━━━萎えた。非常ォオに萎えた。やる気の「や」も出てきやしない。
そりゃそうだろ!?そんなの羊谷の下品女……じゃなかった羊谷 耀が適任じゃね?だが正社員枠で働いている以上、断れないのが世の常。誰の補助に入るのかメールで確認すると、枯れた心にオアシスが生まれた。ついでに、ハイビスカスとか派手な花も俺の周りに咲き誇った。
(……マジかよッ!!相手役が……、神龍時 風羅ちゃんッッ!!)
目の当たりに瞬間、俺の身体は無意識に動いていた。最近の中で、身体能力を百パーセント以上発揮した方だ。隼の如くとはこの事だ。
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(二十分後)
「ふぅ……、コレで支度は完了だな!日本行きのチケットの手配を完了したし、荷物の手続きも完了。この部屋とは、暫くの間お別れだNA……」
約三年間、世話になったアパートの部屋内を見渡しながら呟く。俺の中で愛着が湧いている空間。目頭が熱くなるのを感じながら思い出に浸る中、直ぐに口元に笑みが自然と溢れる。
「だが、安心しろ!お前ら。日本のシゴトが完了したら、この部屋にもう一人増えるからNA!!」
帰る頃には、あの子も一緒だ。必ず、連れ帰って同棲だッッッ!!
「……さて、飛行機の中で策を練らないとNA」
(待っててね~!風羅ちゃんッッッ!!)
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