公主とシゴト話。

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◇◇◇  丑崎とは、小学生時代からの幼馴染だ。昔から引っ込み思案で弱気で大人しい。  世の中で言う〈陰キャ〉だ。  いつも何故か、首に牧場牛が着けるカウベルをつけている。  腰まで長い濃紫色がかったストレートの黒髪と艶のある青白い肌の彼女。  そして家業が寺もあってか、よく周りの厄除師見習いから《お岩さん》と呼ばれ虐められていた。  しかも初歩的な気のコントロールも上手くできず、暴発する事が多かった。その度に、気弱な垂れ目である青紫色の瞳から涙が溢れない日は無かった。  それを見るに見兼ねたのが、【未谷】だ。  それからだ。彼女、羊谷師範の特訓が始まったのは。 「ちょっと、アンタ!やる気あんの!? 良い?お腹の奥に気を集めるイメージするのが大事なのよ。ほら、もう一回ッッ!!」  丑崎が叱られる姿を離れた所から見ていたら、俺も巻き込まれた。  理由を聞いたら 「アンタ、暇そうだったから。だから、声をかけてあげたのよ。そんな事より、早く手伝いなさいよ!!」 と、いう事らしい。初対面の未谷にだ。  とまぁ……、簡単な説明だけど。これが、ーー俺達の出会いだ。  あと、俺さ暇じゃねーし!!  それから十五歳になった俺と羊谷は一般厄除師試験を受けて合格した。丑崎は、厄除師見習いが受ける初級厄除師試験を合格できずのまま。  二年後。初級試験が終了後に、やっと一般厄除師試験を受ける事ができて合格したと本人から聞いた。  そのお祝いの飲み会場所、都内の居酒屋にて、 「あの……私ね、好きな人ができたの。報われなくても支えたい。その為には今より強くなりたいのよ。 だから……、〈恐山〉へ行って、修行してくる」  柔らかい日差しのような笑顔で、普通に言ってきた丑崎。その違和感ある会話の一部に俺は、一瞬言葉を忘れてしまった。 (…………ん? O•SO•RE•ZA•N?) …… ………… ………………恐山ッッッ!!?? 「あ……うん、そうなんだ。まぁ……、頑張れよ」 「うん、ありがとう!陽介くん」  この話を聞いた俺は、深く聞かず曖昧な返事をして終わらせた。うん、嫌な予感過ぎてコレ以上は保てないと思ったから。  主に、俺の精神面が。  鈴蘭のような柔らかい笑顔でお礼を言われ後、ふと真顔になる丑崎。  急に瞳孔が開き、マネキンのような無表情になる。初めて見る表情に、俺の知らない彼女がいて背筋が凍った。  よく見ると、彼女の耳元で少量ながら砂が舞っている。  まるで、告げ口の現場を見ているようで、若干恐怖に感じた俺。しかも、 「あ……、嵐くん。誰……?今隣にいるその女は、誰なの??」 (……アラシ、くん?……って、誰だ??) 「………陽介くん、ごめんなさい。私、急用を思い出したから!!」  独り言を吐き捨てた後、慌てて店を出て行った丑崎。疑問が残りつつも、その後はどうなったか知らない。  これは、海外へ赴任する三年前の話しだ。  そして再会できたのが、三年後の本日。事務所へ到着する、一時間前の出来事。  先程、空中移動している時にアイツが現れた。  ーー 砂状態でだ。  再度、気を練った〈纏〉で走るように空中移動していたら、突然俺の周りに砂嵐ができあがる。空一面だった視界が砂の壁に変わった瞬間。  こちらを覆うように、迫り来る黄土色の砂粒。  拘束される前に、いつもの俊敏な動きで発見した右斜め前に発見した砂の隙間。  そこから逃れようとしたら、タイミングが遅かったのか三秒間の間で頭部以外をキツく拘束された。 (ーークソッ!誰だッ!?しかも、俺よりスピード速い!!? もしかして、イレギュラーの〈厄〉か?いや……、アイツらが白昼堂々とこんな事するか!?)  この前触れも無い緊急事態。  この時の俺は犯人が分からない状況下、脱出の策を練ろうと顔を俯かせて集中しようとした。  すると、両手頰に砂の粒子の集まり包み込む。徐々に具現化される、  ーー 青白い手。  包み込まれた手は、俺の顔に爪を食い込ませ強制的に顔を上げさせた。いきなりの行為に、ブチ切れそうになってしまう。  だが、ここで感情的になったら奴さんの思う壺だと言い聞かせ、怒涛になっている気持ちを無理矢理蓋をする。が、この状況でなかなか難しい。 (ーーッ!どこの野郎だ!?せっかくだから、どんな(ツラ)を拝んでやらァ!!)  内心舌打ちしながら、相手の顔を拝んで唾を吐いやろうと思い鋭く睨みつける。  人当たりの良い垂れ目が細くなり、人相の悪い目つきになってしまっているだろう。  そして、予想外の人物に思わず凄んでいた目を俺は思わず見開いてしまった。 「……ッ!!う……丑崎ッッ!?」  まさかの幼少期から幼馴染だとは思わなかった為、こちらの思考内のスクランブル交差点が渋滞してしまう。  そんな事を露知らずの相手は、俺を見下ろし目が血が走り睨んでいる。例えで言うと、夜叉……いや、その上の般若だ。 「な……何で、お前こんな所に?じゃなくて、こんな事をッ……!?」  纏まらない状況整理と言葉。思わず、陳腐な発言を口にしてしまう始末。  相手はそんな事どうでも良いのか更に爪を食い込ませてくる。その箇所から、つーッ……、と血が流れる感覚を味わう。  数秒後、沈黙していた彼女の桜色の唇が動く。 「……のせいで、……なくなった」 「……ん?丑崎ぃ〜、全然聞こねぇわ。人と話す時はもう少し大きめで、って言っただろ? お前、全然変わってな……」 (突然、拘束してきたから……何事かと思ったけど。……なんだよ、三年前と変わらないじゃないKA)   「てめぇーのせいで!嵐くんと〈夫婦〉ができなくなった、って言ったんだよ!! クソ猿がぁぁーーッッ!!!どうしてくれんだよ!!あ”ァッ!!」  ーーガラリと、豹変した彼女。  しかも初めて見る一面に。言いかけていた言葉が急遽一時停止し、喉の奥がシャッター閉めをしてしまった。そして、丑崎からの意味不明な罵倒が続く。 「……何で?……なんで、なんでなんでなんでなんで??コイツなんかと、夫婦生活送んなきゃいけないの!? 数ヶ月、嵐くんと一緒に居られると思って料理のレパートリーを増やしたのにッ……!! こんな奴の為に料理を作らないといけないの!? こんな世の中なら、滅べば良いのに……」  次は両手で顔を覆いながら、自分の世界に入り深く啜り泣き始める。  昔から、そうだ。スイッチが入ると自暴自棄になる癖。変わっていない。 「おい!お前何を言ってんだ!?……俺と夫婦生活?? というか、俺今から事務所に行かなきゃ行けないんだよ!早くを解いてくれよッ!!」  今でも砂人間の彼女。そして、眼から出ている涙は赤い液体。仄かに錆びた鉄の匂いがして、俺の方が別の意味でどうしたら良いか分からない状況だ。 (というか、もう、ホラーじゃねぇかッッ!!)  終いには、獲物に狙い定めた猛獣のように俺との視線を合わせ、ブツブツと念仏を唱え始める。  すると、俺を拘束している薄茶色の砂が赤黒く変色し、皮膚に浸透し体内へ潜り込む。 「 ーーーーーー……っッッ!!」  全身に重い激痛が稲妻のように走る。我慢できず、声にならない声をあげてしまう。  ハリガネムシが這いずるように、色んな箇所に鈍い痛覚が増えていく中。  全身からドッと、吹き出す汗。拒絶反応が強く出て身体の震えが止まらない。  いきなり理不尽な事を言われ、訳分からない事をしてきた幼馴染に、我慢の限界が超えた俺は文句言ってやろうと、直ぐにキツく目線を向ける。  すると、相手はいつの間にか右手に裁縫針を持っていた。左手には、約三十センチメートルくらいの手作りの少年人形。しかも、 (……どこかで見た事あるような人形だな……?)  そう呑気に考えていると、丑崎は持っている人形の胸あたりに……  ーー 針を、刺した!  その瞬間、俺の心臓辺りにナイフが突き刺さった感覚が脳まで一直線に奥へ、奥へと、中心部へ貫く。  あまりの鋭く強い衝撃に一瞬、気が飛んでしまった。  だが、血は出ていない現実。共にこの状況に、直ぐに察した。 (コイツ……、俺に呪いをかけやがったッッ!!) 「……くん。私ね、嵐くんと夫婦生活を送りたいの……。 〈何とか〉してくれたら、このお人形から解放してあげる……」  地から這い上がるような仄暗い声色。俺の耳元に静かに告げた後、砂嵐となって跡形も無く丑崎は消えた。  俺は痛みが残る中。何故こうなったのか疑問の渦のまま、急いで事務所に向かった。  (のち)に、社長から今回のシゴト詳細を聞いて、直ぐに理解した。そして、心の中で叫んだ。 ーーー 俺のせいじゃ、無いじゃんよぉぉおおッッ!!   この事務所内にて。  プッツンイカれ女に変貌してしまった幼馴染の丑崎に対して、前向きな感情が死亡した被害者の俺。  ここでも薄らと目頭から苦い涙が出そうになったのは、ここだけの話だ。
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