公主とシゴト話。

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◇◇◇  「……嵐くん。いつ〈観ても〉可愛いわぁ……。ふふふっ」  そして、ーー現在に至る。  この三◯六号室の部屋の居間にて。  フローリングの床の上にひよこ座りをしている丑崎。  しかも何故だか隣に置かれているアタッシュケース。そして目の前で丑崎によって作られた、宙に浮いている砂のB4サイズの画面。  そこに、映されている三◯五室の二人。後ろから覗き見して見ると、 (……ッ!風羅ちゃんッッ⁉)  しかも、音声付きだから会話も聞こえてくる。 《……もう、嵐。もうすぐお夕飯だからテーブルの上を片付けてよ!!》 《えー……。俺、新商品のチーカマスペシャル食ってるから無理〜〜。なぁ、なぁ、そんなことよりさ。このチーカマ凄ぇよ!場所によって味変するんだぜ》 《今日は、嵐が食べたいって言ってたハンバーグだよ!だから、さっさとテーブルの上に散らかしているチーカマ以外も片付けてよッッ!!》  この声を聴いた瞬間、心が舞い上がり踊った。 (風羅ちゃんの手料理食いてぇー!!おい、チーカマKY!!そこ代われYOッッ!!)  そして脳内に、彼女との〈仮夫婦生活〉の楽しい妄想が瞬時に広がった。 *********** 「……どうですか?猿堂さん。私、猿堂さんの為に頑張ってハンバーグを作ったんですけど……」 「うん!美味しいよ、風羅ちゃん。凄いなぁ、風羅ちゃんって料理上手なんだね!!凄く、ほっとする味で落ち着くよ。アメリカのシゴトを終わらせてまで日本に帰ってきて良かった、と思うくらいにね」 「そんな……、私の手料理なんて……。猿堂さんが出張に行っていた、本場のアメリカ料理に比べたら……平凡過ぎて。なんだか、すみません……」 「謝らなくて良いよ。俺、風羅ちゃんの手料理食べられて本当に嬉しいんだ!!それに、良い奥さんになれるなぁ……って思うほどに」 「……嬉しい!私みたいなのに、そう言ってくれるなんて……。お世辞でも本当に嬉しいです、猿堂さん。 あ……、ごめんなさい。嬉しくて涙が……」 「風羅ちゃん、お世辞じゃないよ!ほら、泣かないで……。俺、ずっと前から風羅ちゃんの事が好きなんだ。海外へ出張していた時でも、君の事が忘れられないくらい愛してるんだッッ!! 今は、シゴトでの仮の夫婦生活だけど、実現したい。俺の奥さんになってくれッッ!!」 「……ッ!私なんかで良いんですか?猿堂さん??」 「〈私なんか〉って言わないで、風羅ちゃん。俺達はここでは夫婦なんだ。俺の事を〈陽介〉って呼んで。ね?」 「━━━陽……介さん。なんか、照れちゃう……」 「これから、ずっと一緒に生活していくんだからな。慣れるように頑張ろうね、風羅ちゃん」 ***********  よっッッッしゃぁぁぁぁあああーーーッ!  コレ、コレ、コレ、コレ、コレだよ!KO ・RE!!  コレを是非とも現実にしたい俺!ーーはい、決まりッッ!!  だが、……それには、条件が二つある。  一つ目、理由をつけて夫婦交換の要請を出す。コレについては、正当な理由で許可を貰ったから問題は無い。  二つ目は、パートナーの許可を得る事だ。  他の奴なら言いくるめて、はい終わり!の、簡単な話。  だが、目の前の女は難問だ。非常に、ひじょ━━━に厄介だ!  言葉一つで、吉凶が別れる。  背筋に一筋の汗が怯えるように、ゆっくりと流れ落ちる今。━━緊張が走る。 「なぁ、丑崎……」  俺の一言で、彼女の華やかな雰囲気が強制終了され、ギョロリと仄暗い青紫色の瞳で見上げながら睨んできた。  本来、ひよこ座りしている彼女から見上げられても、愛らしいと思ってしまう世の中の男は多いだろう。  うん、でもさ……。  相手はそんな生優しい者じゃない。それは完全なる拒否反応。  だらりと流れている烏色の黒髪から覗かれている青紫色の瞳に光は無く、その奥にある瞳孔が敵意むき出しで俺にロック・オンしている。  それだけじゃない!その証拠に、一瞬で作った砂のボーガンの矢をこちらへ向けていたのだ。  思わず、怯みそうになってしまう。オマケに、彼女の手に持っている先程の人形と……  右手に、━━━中華包丁。 (……え?ちょっ、━━━やべぇッ!悪い意味で武器が進化しているッッ⁉ もう、ヤダァッッ━━!コイツ。何のホラーだよ!?コレ。 誰か何とかしてくれよぉぉぉおおお!!) ━━━━━━いや!ダメだ、怯むな俺。  風羅ちゃんとの仮の同棲生活がかかっているんだッ!!  ちょっと、まぁ……今チビりそうになったけど、ノーカウントだ!!(ドヤッ!!)  将来のリアル【夫婦生活】の実現にかかっているんだッ!あんな事やこんな事をする為にも━━━ッ!!それに……、 ━━━丑崎の奴は、嵐と同棲したい気持ちは変わっていない! (アイツの何処が良いのか不明だが……)  その事実がある今。  ソレを利用させて貰うぜ!次の一言で俺の運命が決まる!! 「う……、丑崎。お前は嵐と夫婦生活したんだろ? 俺は風羅ちゃんと夫婦生活しながら、今回の任務をサポートしたい」  この言葉に目を見開く、プッツンイカれ女。  耳を傾けた様子に、勝利を確信した現在。思わず、頰が緩んでしまいそうになる。  だが、完全に成功をしたわけではない。油断は禁物だ。  再度、今回のシゴトのリーダー且つ猿堂家当主としての顔で、話を進める。 「俺に提案がある。言う通りにすれば、お前と嵐が期間限定の夫婦生活ができるぜ?成功したら、これからも嵐とずっと一緒に二人っきりで居られるんだ。 〈俺は風羅ちゃんと、丑崎は嵐と……夫婦生活を送りたいという目的〉があるなら。 ……俺と手を組まないか?丑崎」  この一言伝えた後。  彼女の手の中にあった中華包丁は、アタッシュケースに収められ、新たにサバイバルナイフへ変わった。  相棒のように、しっかりと刃物を握られた右手。俺の形をしている人形を、首辺りに掴んでいる左手。  その光景に、俺は本気で泣きそうになったのは言うまでもない。何回も思うが……、 (嵐の野郎のどこが良いんだYOッッ!?全然、分かんねぇ━━ッ!!)
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