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「おーい! 室木! チーフが探してたぞ!」
「え!? はい! すぐ戻ります!」
先輩に声をかけられた俺は、定食の唐揚げを急いで咀嚼し、味噌汁で流し込んだ。
「やっぱ忙しそうだな、CG部門は。また飲みにいこうぜ」
「うん。じゃあ、また」
俺は和久井と北瀬さんに目配せをして、社食を後にした。
*
「すみません、チーフ! 戻りました!」
「ああ室木くん、呼び出してごめん。直しの依頼がきてさ、急ぎで……お願いできる? データは室木くんのフォルダに送ってあるから」
「はい、わかりました」
俺の仕事はCG制作。今はインテリア会社の広告用のCGを担当している。求められているのは、ひたすらリアルを追求した作品。まるで写真のようなリアルなビジュアル、これはこれでいいんだけど俺はもっとこう……。
いかんいかん。今は仕事に集中しなければ!
*
直しはパパっと終わらせたし、今日も定時で帰れる。定時で帰れるからといって、和久井に飲みにいこうなんて誘いの連絡はしない。だって、帰ってからやりたいことがあるから。北瀬さんと飲みたい気持ちはあるけど……ごめん北瀬さん、今の俺にはこれが最優先事項なんだ。
自宅アパートについて、パソコンの電源を入れる。そしてコンビニで買ってきたカツカレーを食べながら思案する。
次はどんな作品にしようかなあ。
俺はCGアーティストKと称して、K's Dreamscape(Kの夢の風景)という空想のCG画像をSNSにアップしている。『地球外生命体との遭遇』をテーマに、俺の妄想100パーセントの作品を全世界に公開中だ。俺の作品は、多くを語らず見た人に想像してもらうスタイル。作品のタイトルと緯度経度を数字のみで表記している。この場所にこんな風景や痕跡やアーティファクト(地球外生命体の遺物)があったら面白いだろうな、と思う秘境や山奥の緯度経度を指定している。俺なりの遊び心だ。緯度経度だとわかる人は調べるだろうし、わからない人は、「この数字はなんだろう」と考えてもらうのもいい。中には現実の写真だと思い込む人も出てきて、創作意欲を湧き立たせてくれる。
窓の外でコツコツと音がした。
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