エイプリル・フール

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 4月1日、エイプリルフール当日。  俺は会社へ向かう道中で大きなあくびをした。深夜まで新作を作っていて、4月1日になってすぐに作品をアップしたからだ。 「朝から眠そうだね。室木くん」  クスクスという笑い声とともに声をかけられ、振り向くと北瀬さんがいた。 「あ、北瀬さん。おはよう」 「おはよー、今日から新人さん入ってくるんだから、シャキッとしなきゃ」 「うん……そうだね」  俺はうなずいた。ふと北瀬さんが手にしていたスマホの画面が目に入り、俺の目がくぎ付けになった。だって画面に俺が深夜にアップしたCG画像が表示されていたから。 「ん、なに? あ、この作品いいでしょ? 私ずっと前からファンで……コメント入れちゃうくらい。ふふ、見てこれ。この『kita3(キタサン)』っていうのが私。そういえば、室木くんってSNSとかしてないの?」 「あー……」 「してないか。まあでも、見るだけでも、このCGアーティストのKさんの作品はおすすめ!」  嬉しそうに声を弾ませて、北瀬さんは俺に俺の作品をすすめてきた。  会社まで平静を装って、俺はようやく自分のデスクについた。  もう心臓がバクバクだった。まさか北瀬さんが俺の作品のファンだったなんて。『kita3』も、もちろん知ってる。俺からコメントは返さない主義だけど、いつも褒めてくれるんだ。めちゃくちゃ嬉しい。これはマジでバズったらKの正体は俺だって北瀬さんに明かそう。  仕事中、俺はこっそりトイレにこもって、作品のインプレッションを確認した。  全然、バズってない。あーあ、そんなに甘くないかあ。  夜までインプレッションのチェックをしたが、劇的に増えることはなく、エイプリルフールのバズリ計画は、あっけなく終わった。  まああれだ。やっぱり大手のフェイク画像には勝てないってこと。あと時間がなくて新聞仕立てにできなかったから、それも原因かもしれない。でも作品は気に入ってるから、現状は満足だ。
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