僕の嘘は、愛する君に敵わない

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 僕はそこまで話し終わると「こうして、僕は妻と別れたんだ」と僕の漫画の担当の、キュートな緒方さんに言った。  僕とキュートな緒方さんは、書店のバックヤードの片隅で、僕のサイン会の始まる時刻まで待機していた。そこで雑談するうちに、僕の離婚の話しに、話題が流れていったのだ。  何故漫画が描けなかった僕が、サイン会に呼ばれたかと言えば。僕が妻と別れた半年後、いきなり僕は漫画を描けるようになって、幸運にも作品がヒットしたのだ。  僕の思い出話を聞いて、キュートな緒方さんが言う。 「そんな風に奥様と別れたんですか?」 「そうだよ」 「森先生は、離婚を舐めてますね」 「舐めてる? そうかな? これでも僕は、結構辛かったんだよ。今も引きずってるよ」 「そうは見えませんよ。自分勝手に見えます。君のためなんて言っているけど、違いますよね? 奥様にダメな部分を責められるのが嫌になっただけですよね? 漫画を演出するみたいに、美しく話を盛って、誤魔化さないでくださいね」    僕は悲しい。 「そう思う? でもさ、僕は妻を愛していたのに、別れたんだよ」 「だったら愛していたのに、何で愛してないって言ったんですか?」  緒方さんは呆れているようだ。  僕は真面目な女性に呆れられるのが得意技らしい。    僕は答える。 「未練なく、妻が僕と別れられるようにだよ」  緒方さんはちょっと怒って見える。 「離婚届を出したと言う、奥様からのメッセージは、ちゃんと森先生に届いたんですか?」 「すぐ届いたよ。彼女は仕事が早いんだ。離婚届を出しましたと言うメッセージが、直ぐ届いたよ」 「それだけですか? 他に何かメッセージはなかったんですか?」 「それだけだよ」  緒方さんが躊躇うように聞いてきた。  「愛しているんでしょう? 漫画はまた売れたんですし、奥様とやり直さないんですか?」  僕が言う。  「僕から、何か言えた義理じゃないだろう?」  緒方さんが寂しげに言った。 「確かにそうですね。夫婦も、終わる時は呆気なく終わるんですね。勉強になりました」  緒方さんが時計を確認した。 「さぁ、森先生。サイン会の時間です。愛想良く読者さんと触れ合ってくださいね」  僕は笑顔で言う。 「はい、はい。了解です。僕の大事な読者様にサービスいたします」  緒方さんが元気に言う。 「よろしくでーす」  緒方さんは明るい。キュートで可愛い。妻ほどじゃないけど、僕は緒方さんが好きだ。  
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