僕の嘘は、愛する君に敵わない

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僕の嘘は、愛する君に敵わない

 ――僕は描けなくなった。  僕は漫画家で、売れっ子だった。でもある日、突如僕は、描けなくなった。  描けない僕は、1人家で酒を飲む。  ドアのベルが鳴った。  僕は誰が訪ねてきたか知ってる。  僕は玄関のドアを開く。  君がいた。  ――君は僕の妻。最愛の人。  僕と君は、玄関の内側で、出会い頭のキスをした。    キスに後、君が聞く。 「お酒飲んだの」 「何で分かるの。君がくる日だから、少ししか飲んでないのに」 「キスの味がワインだった」 「バレたかぁ」  君はすぐ僕の誤魔化しや嘘を見破る。  君は怒って言う。 「もう酒は飲まない。もう飲まないって、会う度にあなたは言うけど。結局飲んで、酔って、ダラダラ1日過ごして。吐いて、気を失って。何も描けなくて……」  君の不満と心配が、僕に刺さる。僕は謝る事しか出来ない。 「ごめん」 「あなたが、私といると辛くて飲んでしまうから、お酒止めるために別居しようって言って……。それで別居して、月に2回会っているけど。結局あなたはお酒をやめなくて」  僕は謝罪を繰り返す。 「ごめん」 「どうするの? いつお酒をやめて立ち直ってくれるの」 「ごめん」 「私だって、辛いし、苦しいの」  君の顔は、本当に苦しそうで。 「ごめん」  僕は君に申し訳ないんだ。 「ごめんしか言わないのね」 「うん、そうかも……。ごめん」    僕は君を、ダメな僕から解放してあげたい。  だから言うんだ。 「別れよう」 「別れるの?」  君のために、僕は言う。 「そう。だって僕は君を悲しませてばかりいる」 「いやよ。別れたくない」  ――君はダメな僕と、まだ一緒にいたいと言ってくれるんだね。でもそのうち愛想が尽きて、顔を見たくなくなるんだ。 「僕は君に頼ってばかりいて。僕は君がいたらきっといつまでもこのままだと思うんだ」  君の表情がこわばる。 「そんな……」  ――君が本当に僕を嫌いになる前に、僕たち別れよう。 「僕はダメな奴なんだよ。立派な君は、僕には重いんだ」  ――君は優秀な人だから。 「私の事が嫌いになったの」  ――君は1人でやっていける。 「ごめんね。僕はもう君を愛してないんだ。だから別れて欲しいんだ」  ――ダメな僕から、君を解放してあげたい。    僕は用意していた用紙を差し出す。 「これ」 「何?」 「離婚届だよ」  君はじっくり書類に目を通す。 「全部書いてあるのね」 「君に手間をかけさせちゃ申し訳ないからね。後は君がサインしたら良いだけだ」  君は離婚届を見ながら言う。 「分かったわ。別れてあげる」    ――君は決断が早い人だ。君は高速で動く。 「今から区役所へ、離婚届を出しに行くわ」  ――君の仕事はいつでも早い。 「僕も行こうか?」 「酔っているんでしょう? 酔っ払いは来ないでいいわ。届きを出したら、メッセージ入れるから」 「分かった。メッセージを待っているよ」    君は言う。 「さよなら」  僕も言う。 「さよなら」  
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