15人が本棚に入れています
本棚に追加
穏やかではない
「なんだよ。オレだって忙しいんだ。ハニートラップにでも引っ掛かったのか。ヒデ?」
オレも面倒くさそうに嘆いた。
こんな下らない話しをするために夜中から何度もオレの元へ留守電を掛けてきたワケではないだろう。
「キャッキャッ、自業自得よ。お気の毒だけど、そんな詰まらない事件にウチのシンゴは貸せないわ」
すぐにマリアは勝手なことを言ってヒデを困らせた。すでにオレの所有者気取りだ。
『ううゥ……、頼むよ。シンゴ君。このままだったら、オレは殺人犯にされちまうよ』
「え、殺人犯?」
さすがに『殺人犯』というのは穏やかではない。
「なによ。誰を殺しちゃったの。ゲロってご覧。楽になるから」
けれどもマリアは真面目に訊かない。小悪魔さながらの反応だ。
『いやァ、マジで頼むよ。シンゴ君!』
そうヒデが泣き叫ぶと、電話口にもう一人の男性が口を挟んだ。
『もしもし、あんたがコイツの顧問弁護士かァ?』
かなり威圧的な喋り方だ。声が渋いので三十代くらいだろうか。声から察するとオレよりも年上みたいだ。
オレも改まって挨拶をした。
「ええ、どうもヒデの親友で顧問弁護士のシンゴです。失礼ですが、そちらはどちら様でしょうか?」
できるだけ丁寧に応対した。
『フフゥン、オレか。オレは鰐口って、堂島署の警部補だ』
「キャッキャッ、ワニぐちだって、怖ァ。ガブッて咬ってきそうじゃん」
途端にマリアはおどけて笑った。
「ちょっと黙っててくれよ。マジなんですか。警察にヒデが厄介になってるのは」
『うむ、まァね』
鰐口警部補は静かなトーンでうなずいた。
どうやら嘘ではなさそうだ。
最初のコメントを投稿しよう!