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拓海くん
化粧室を出て、横浜みなとみらい駅の改札口を抜けると、そこは若いカップルや家族連れでごった返していた。ちらほらと外国人の姿も見えていて、コロナ禍だった以前が嘘の様に感じてしまう。私は改札が見える大きな柱の前で彼を待っていた。
彼と付き合い始めて一カ月。まだデートも初々しくて新鮮だ。未だ手を握る関係までの私達は最近の高校生のカップルとしては少し遅れているのかもしれないけど……。
でも特別な事情を抱えた私にとって、それはある意味とても大切なことだった。
階下で電車がホームに滑り込んで来る。ドアが開いた音が聞こえた後、エスカレーターを駆け上がってくる男の子が見えた。
長身のスマートな体躯にボーダーTシャツとCPOシャツをコーデし、黒のスキニーパンツが細くて長い脚にフィットした美男子。私の彼、安藤拓海くんだ。
改札の向こうで私を見つけると、彼は大きく手を振って満面の笑みを見せてくれる。私はその笑顔に心臓を撃ち抜かれ恋に落ちた。
「五月! ごめん、待った?」
改札を抜けて彼はそう声を上げると、肩で息をしながら私の前で立ち止まった。
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