拓海くん

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「ううん。前の電車だったから、待ったのは五分だけ」 「良かった。じゃあ、行こうか」 「うん」  私が頷くと彼は躊躇(ためら)いも無く私の右手を掴んだ。心臓の鼓動が高鳴るのを悟られないように少し俯いたけど、彼は私の手を引いて改札から左手に歩いていく。  地上に向かう長いエスカレーターで前後に並んだ間も、彼は繋いだ手を握り締めたままだ。その手はとても暖かくて心地よかった。  エスカレーターを降りて建物を出ると、外は快晴で真っ青な夏の空が広がっている。正面には『よこはまスペースワールド』に在る大観覧車『スペースクロック21』が見える。その中央のデジタル時計は『13:38』と表示されていた。  今日の私達は、この遊園地で遊んだ後、近くにあるワールドセンターで映画を見て、シーマークプラザで夕食を食べるというデートコースを予定していた。 「なあ、五月(メイ)。最初に観覧車に乗ろうよ」  大観覧車を見上げながら私は大きく頷いた。
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