パライバトルマリンの精霊王は青い薔薇のきみの夢をみる

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 周囲までもが明るくなったかと思いきや、ボフッと妙な音を立ててまるで綿アメみたいな煙が出て甘ったるい匂いに包まれる。  ——あれ? 視界がめちゃくちゃ低い。何これ……。  床についている自分の手足が青い毛に覆われているのが分かって、恐る恐る上を見ようとすると、抱き上げられた。 「可愛い~レオンにゃん!」  ブハッと笑いを噴き出された。 「にゃっ」  変声薬を作っていたのが、ランベルトのせいで変身薬になってしまったようだ。 「そこのグループは二十点減点です。初めっから作り直すように!」  ——最悪だ。 「はーい!」  元気よく返事したランベルトがさっきまでとは違って、手際よく魔法薬を作っていった。  しかも即行で満点で完成させたものだから殺意しか芽生えなかった。 「レオン・ミリアーツは元の姿に戻るまで部屋に行ってなさい」 「にゃー……」  授業が終わり、レオンは元の姿に戻るまで自室で待機を命じられた。  心底頭にきていたのでさっさと一人で戻ろうとすると、あまりにも視界が低くて前が見えずにすぐ立ち止まる。ひょいっと抱え上げられてランベルトの腕の中に収められた。 「戻るまで俺が面倒見てあげるからね」  ——お前のせいだろっ! 「俺、レオン送って行ってきます」  教室を出て、廊下を歩きながらチュッチュと細かい間隔で口付けられる。 「ちょっと効果出過ぎちゃったね。レオンに猫耳付けたかっただけだったんだけど。でも青猫姿も可愛いよ、レオン。俺がずっと飼いたいくらい。レオンの青、大好きだよ。クククク……っ」  ——嘘つけよ、笑ってるじゃないか。  輪をかけて腹が立ったのでその端正な顔を引っ掻いてやった。ざまあみろ。 「やっと戻った……」  今日は踏んだり蹴ったりだ。  薔薇が降ってきたと思えば、猫になるし、戻った矢先にすぐにまた薔薇の片付けとくる。  ——本当、何考えてんだか……。  全ての授業が終わり、教員室から貰ってきた透明な巨大なゴミ袋の中に魔法で浮かせながら薔薇の片付けをしていた。  その横でランベルトは機嫌が良さそうにまたしても鼻歌を歌っている。 「ランベルトっていつも一人で楽しそうだよな」 「一人で楽しそうって、俺がアホみたいな言い方やめて? 俺が楽しいのはレオンといる時だけだから。他では無表情だよ俺。ねえ、ちゃんと分かってる? レオンだけが特別なの!」 「はいはい」  あしらうようにヒラヒラと手を振ってやった。  少し前から受け流すのが困難になってきているやり取りが、最近は少し辛かったりもする。  ランベルトが所構わず口説き文句とも取れる言葉を発するから、真に受けないように努めているつもりでも、気恥ずかしくなると共に切なくなってしまうからだ。  ——何で〝恋人ごっこ〟なんて承諾してしまったんだろう。  ランベルトと一緒に居れば居るだけ、心まで傾いていってしまうのを止められない。  ——好きだ、なんて言えない。  ランベルトの隣に居られなくなるのが、寂しくて堪らなかった。  ——言わずにいれば良い。そうすればランベルトとずっと一緒に居られる。  思考回路の大半を狡い考えの自分が占めている。  誤魔化すように顔を上げてランベルトを見つめると、同じタイミングで見つめられてニッコリと微笑まれた。  何故かこちらと同じようにチマチマと薔薇を袋に入れている。  その桁外れの魔法力でやってくれたら一瞬で終わるのに、と思いながら見つめる。 「ランベルトがやってくれたらチャッチャと終わらせられていいんだけど?」 「それだとこの時間があっという間に終わっちゃうでしょ。やだ」 「やだって、子どもかよ」 「嫌なものは嫌なの。俺はレオンと少しでも長く一緒に居たいから」  また微笑まれた。  ——出た。この天然人ったらし、そういうの本当に止めろ……。  ランベルトは態度も甘ければ言葉も甘くなるから対応に困る。 「意味がわからない」  そっぽ向く。 「レオン、怒ってるの?」 「まあ、今日は誰かさんのせいで散々な目に遭ったからな……」 「レオン、怒らないで?」  啄むだけのキスを送られる。たったそれだけで気分が上向く自分も大概だ。 「ランベルト」  名を呼んで少し間を開ける。 「んー、なに~?」  過去からさっきまでずっと疑問に思っていた事を言葉にする為に口を開いた。 「何で俺だったんだ? お前なら他にいくらでも相手がいただろ?」  ポケッとした顔をしたランベルトが、次の瞬間に腹を抱えて笑い出す。 「それ今更すぎじゃないの? どうしたの? 時でも止まってたのレオン?」 「もういい」  勇気を出して真剣に聞いたつもりだったのに、ランベルトからは茶化した答えしか返ってこなかった。  全ての薔薇を片付けて、袋の口を閉じる。 「何か……捨てちゃうのは勿体ないな。こんなに綺麗なのに」  魔法とはいえ全て生花だ。教室中も薔薇の匂いで溢れていて良い匂いがしている。 「レオンにあげたものだからレオンの好きにしていいよ。ごめん、ちょっと実家……王宮から電話かかってきたから行っていい? 一人で大丈夫?」  掲げて見せられたランベルトのmgフォンがバイブで揺れている。 「報告くらい一人で出来るよ。呼び出しなんだろ? もう行きなよ」  腰を屈めたランベルトに軽く口付けられる。 「用事が終わったら会いに行っていい?」 「起きてたらな。メッセージ来た時間帯を見て考える。先生には俺から伝えておくよ」 「うん、お願いね」  普段と違って何処となく元気がないようにしているのが気になったが、手を振って別れる。  ——母さん薔薇好きだから喜びそうだな。連絡して送ってみよう。  mgフォンを取り出す。  写真を撮って唯一の肉親である母親……サーシャにメッセージを飛ばすと即既読になり「全部欲しい!」と返ってきたので思わず笑ってしまった。  しかも人族の住む土地では珍しい品種の薔薇らしく、興奮気味な内容がいくつか小分けにされて入ってくる。  ——精霊族の国で咲く薔薇なのかな? 「ふふ、喜び過ぎだろ」  二~三メッセージのやり取りをして、一先ずは全て物質転移魔法で自室へと送ってから教員室へ向かった。  他の教師は帰ってしまったらしい。  中には掃除を言い渡した魔法学を教えているカメリナ・ザウローだけがいて、レオンは声をかけた。 「ザウロー先生終わりました。ご迷惑をおかけしてしまいすみませんでした。あと、集めた薔薇は実家に送りたいんですけど、貰っても良いですか?」 「ああ、構わんよ。ところでイルサル君はどうしたんだ?」  ザウローが黒髪をかきあげながら見つめてくる。 「実家から呼び出しが来たと言っていたので、さっき先に帰しました」 「ほう……何かあったのか?」  探る様な、それでいて舐め回すような視線が居心地悪くて視線を伏せた。 「どうでしょう? 詳しくは聞いてません」 「そうか。分かった。もう行きなさい」 「はい。失礼します」  教員室を出て自室への帰路を辿る。  背後から髪を撫で付けられた気がして途中で足を止めて振り返った。  ——誰もいない……気のせいか?  頭を切り替える。  寮へ行くには、一度五つの分かれ道がある校舎の大広間へ行く必要がある。  そこで認証されて初めて寮へのワープ用の扉が開く仕組みになっていた。
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