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「かまうことはない。やっちまえばいい」
太一の太い声がその沈黙を破った。
「そりゃ、お上の御墨付きの三座あたりじゃあ出来ねぇかも知れねぇが、こっちとら緞帳芝居、お上の御触れなんぞ関係ない」
享保八年二月、その当時頻発した男女の心中は、たびたび上演される文楽歌舞伎の心中ものの影響に相違ないとした幕府が心中ものの上演を禁止したのである。
「しかし……」
喜助は去年の夏の岡場所の手入れを思い出していた。
元禄の時代に浮かれすぎた庶民に対するお上の締め付けは、そう甘いものではないのではないかと思うのだった。
とうとうあれ以来花吉の消息も知れていない。
花吉との最後が浮かぶ。あの芝居をふたりでやって、そう叫んだ。そうさ花吉、おめぇの言うとおりようやく若とあの芝居ができそうなところまでこぎつけたよ、だけど。
結局、俺は花吉を助けてやれなかった。
その思いが喜助の心に小さからぬ棘として残っているのだ。もしもこの芝居のせいでまたこの川村座がしょっ引かれたら、そう思った。前回は特に俺のせいというわけではなかった。しかし今回、もしお上の御触れを破って万一のことになったらそれは間違いなく俺のせいだ。
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