71人が本棚に入れています
本棚に追加
/11ページ
「将来、国王陛下や王太子殿下の愛玩人形となる未来が見えた、ということか」
ジルベルトの言葉に、エミリアはこくりと首を縦に振った。
この国における聖女の役割は、王族男性の魔力を暴走させないこと。そのために――非公式で、その身体が朽ちるまで王族男性陣の情愛の相手を勤め続けなければならないのだ。
ジルベルトが嫌悪感を露にしているのは、聖女という綺麗な言葉で覆い隠しているその役目の残酷さゆえだろう。
「わたくしはその運命を回避しようと悩み、貴族学園ではなく魔術師団に入団して未来を変えようと努力を重ねて参りました。男装もその一環です。けれど……また予知夢を見てしまったのです」
エミリアは昨晩、ふたたび同様の予知夢を見た。今日より三日後、十九歳の誕生日に聖女の能力を発現させてしまうらしい。
「なるほどな」
聖女の純潔は絶対に失われてはならないもの。それゆえに、エミリアはジルベルトに純潔を捧げることで、聖女となることを回避できる方法を見出そうとしていた。
ジルベルトはそんなエミリアの思惑を見抜いたのか、どこか呆れたように吐息を落とす。
「で、お前はこんな愚行にでたと」
「……わたくしには、これしか思いつきませんでしたので」
ジルベルトが指摘した通りこのような行為は愚行だ。だが、時間のないエミリアはもう形振り構ってはいられなかったのだ。
ジルベルトは小さく嘆息すると、何食わぬ顔でエミリアがかけた拘束魔術を解除した。彼の身体を拘束していた蔦が一気に霧散していく。
「え……!?」
まさかこんなにあっさり解除されるとは思わず、エミリアは一瞬の出来事に目を瞠った。
ジルベルトはそんなエミリアの反応を横目で一笑すると、そのままぐるりとエミリアと体勢を入れ替え、反対にエミリアをソファの上に組み敷いた。
「国家戦略に関わるから国王陛下にしか伝えていなかったんだがな。俺は中和魔術も使えるんだ」
ジルベルトの切れ長の瞳に、獲物を狙う猛禽類のような光が宿る。
最初のコメントを投稿しよう!