【短編】薔薇の乙女は黒髪の魔術師に愛されて秘密の夜に囚われる

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 鮮やかな茜色の夕陽が差し込む、薄暗い執務室。この部屋の主であり、ハーヴィル王国最強の魔術使い――宮廷魔術師団長を務めるジルベルト・カサールに執務室のソファで馬乗りになっているエミリアは、彼の頬に手を添えて熱い眼差しを向けていた。  今年で三十一歳のジルベルトは独身を貫いており、貴族令嬢たちの憧れの的になっている。切れ長の目や高い鼻梁、引き結ばれた唇などの精悍なルックス、宰相を務める筆頭公爵家の生まれという家柄に加えて、国一番の大賢者と称されるほどの圧倒的な実力から、王国中の貴族女性たちが熱烈に結婚を望んでいる相手なのだ。  恋人を作らず、女性を寄せ付けない堅物と称される彼のそばで二年ほど寝食をともにし、献身的な部下として働いていたエミリアは、暦の上で夏を迎えた初日、人生最大の賭けに出ていた。小休憩を取ろうとソファに寝転んだ上司に拘束魔術をかけたのだ。 「エミリオ。俺は男を抱く趣味などないぞ」  艶のある黒髪と同じ毛色の眉を顰めさせたジルベルトは、エミリアを見上げながら深いため息をつく。エミリアはふっと小さく笑い、ゆっくりと唇を動かした。 「存じております。わたくしはずっとあなた様の秘書官をしておりましたから。娼館にも通われず、小姓(ペイジ)を傍につけることもされなかったことも」  薔薇のように鮮やかな赤い瞳を揺らしたエミリアは艶やかな笑みを浮かべると、自ら魔術師団の制服をたくし上げながら下着を脱ぎ去り、ジルベルトの前にすべてをさらけ出した。(さらし)で隠していた双丘がふるりと露わになり、先端の蕾までもが晒される。 「ッ!」 「ジル様……わたくしを、あなた様のものにして下さいませ」  ジルベルトの表情は一瞬にして強張り、ごくりと喉仏が大きく上下した。けれど、彼はすぐに驚愕の表情を取り払うと、ひどく落ち着いた声色でエミリアを咎めるように言葉を放っていく。 「エミリオ、お前……性別を偽って入団していたのか」
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