2人が本棚に入れています
本棚に追加
その八
”キタかー‼やっぱ、オンナだ…!”
”なら、間違いない…、ヤツがオレを追っかけてきたんだ‼”
”クソッ…、ここは肝の据えどころだって!相手はユーレイなんだ、惑わされちゃダメだ‼”
”カーッ!なんて絢があるんだ…、あのユーレイ…、勘弁しろよ~~💦”
境の悲痛かつ懸命な望み空しく、次第に近まる前方の妖しくも怪しいソノ人影…。
まるでオーブの集団が漂うような靄を遮り、白い幕が割れてもんやり現れた道をまっすぐ、全身移動する細身のオンナらしきソレ…。
さり気に十戒の有名シーンと重なる深夜の妖行進を、その視界から排除できない境は、否応なく、こっちに向かってくるモノがグロテスクであることを願ってやまなかった。
それは当然ながら!
だがしかし…、この時点、ところが!…、なビジュアルは濃厚となった。
”落ち着け…!要は、オレの下半身を反応させなきゃいいんだ!アレを女として、NG出しすれば…”
金縛りでここから逃げ出すことが叶わない境は、声なき声でそう絶叫、己自身を逆呪縛するかの気合を以って叱咤激励を全開…。
いざ、招かれざるソレがここにたどり着く数十秒間、呪文のように必死で唱えていた。
その数十秒間が終わると…、ソレは助手席のウィンドウ近くで止まった。
***
ソレはやはり、”彼女”だった!
間違いなく!
そしてこの晩の彼女は飛び切り、異妖な色香を放っていたのだ。
金縛りの身にある境は、めいっぱいの横目を駆使し、やっと彼女を左端の視界に収めていたのであったが…!
オンナは、ただひたすら直立で前方真正面を向いていた。
つまりは…、境の眼に入るオンナはその顔を見せてくれないと。
”顔…、顔はどうなんだ?ニンゲンに化けた顔ぐらいは拝みたいって!”
不覚にも、境は助手側の車両脇に静止している長い黒髪で隠れた彼女の顔の御開帳を懇願してしまったのだ…。
心の奥底では。
すると…!
***
「…見たい?…ワタシの顔…?」
それはどこか、音声ガイダンスのナマ被りな人工音声に似たまあまあなコエではあった。
「見たくない!さっさと俺の前から消えてくれー‼」
境は抵抗して、心の奥底とは違う叫びを彼女に浴びせた。
横向きで。
「ウソつき!そんなオトコ、嫌いよ。ぶっ殺しちゃうわ。じゃあ、さよなら…」
「やめてくれー、殺すことだけは…。今は死ねないんだ、オレ…‼」
この時…、彼の金縛りは解除されていた。
すなわち、この絶叫は助手席に半身をもたれ、ウィンドウ越しで佇んでいるオンナへと発せられた。
「なら、入れてちょうだい。私を、そこに。それで、入れてちょうだい、其処に…」
”彼女”は既に境の車へと首を捻っており、彼の両眼はあっけなくオンナの顔を写し込んでいたのだが…。
「なんだよ、これ‼まずい…、どこかで見た顔だ、これ!好みだ、ソソル顔だよこれ!まずいって…‼」
境に面と向かった”彼女”は、予期通り…、いや、それを超えて好みだった…。
さらには…、それ以上に、”彼女”はしたたかであった!
最初のコメントを投稿しよう!