視えちゃう人・田牧和香

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 あの少女が小児病棟へ移ってから入れ代わるように中学生の男の子が入院。早乙女勇仁(ゆうじん)という。膝の靭帯を切ってしばらく入院することになる。  怪我の状態よりも勉強が遅れることを懸念した両親は、小児科で勉強会があると聞きつけて、そちらに参加したいと申し出てきた。親の動揺は子供に影響する。彼自身も不安でたまらないだろう。こんな時くらい、ゆっくり休めって言ってあげればいいのに。  特別な検査や診察がなければ、わたくしが彼を小児科へ連れていくことになった。  彼は礼儀正しく、まじめな男の子。どちらかというとこの年齢は難しい子が多いというのに。けど、彼は大人の顔色を見て自分に仮面をかぶっているのではないかと気づいた。  今日、その勉強会のためにわたくしが車いすを押してエレベーターで降りる。そんな封鎖された箱の中で彼は大きなため息をついた。  やはりいろいろと不安なことがあるのだろう。ストレスを抱えているように見える。 「大丈夫?」と声をかけると彼はびくっと体を震わせた。わたくしという存在が後ろにいたことを忘れていたらしい。  わたくしを振り返り、見せた笑顔はいつもの優等生の彼。 「はい、大丈夫です」  小児科のデイルームへ。そこへ行ってわたくしは驚いた。    あの少女がそこにいたから。  ああ、まとわりついている。あの少女の周りにあのもじゃもじゃとした黒っぽい生き物が。  少女はわたくしを見た。ぎくりとする。こちらの心が読まれたのではないかと懸念したが、次の瞬間、彼女はかわいい顔で笑いかけてくれた。  なんて子だろう。ぴかぴかと輝くオーラが一瞬見えた。
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