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「ああ、これで当たり前のいつもがはじまる」
朱里は病院衣から目の覚めるようなピンクのワンピースに着替えて家族の迎えを待っていた。嬉しいはずなのに重いため息をついた。そのように目立つ色の衣服を着て歩けるこの世は本当に平和。
「当たり前とはなんであろう」と朱里に問う。
するとびっくりした顔をしてわたしを見た。
「同じ日のことだよ。いつもと同じ、代わり映えのしない毎日。天気だってずっと晴れてるとたまには雨がいいかなって思うじゃん」
「それは感謝すべきことではないのか」
「なんでもない普通の日だよ。つまんない」
朱里はぷうと頬を膨らませる。それは抗議の印。本当にかわいいと思う。わたしには今まで誰かにこんなふうに甘えることなんてしたことがなかった。
「わたしは目覚めてまず、まだ命があった、無事に目覚めることができたと感謝するぞ」
「え……」朱里は次の言葉が見つからない様子。
「寝ているとき、命を狙われて目覚めたことがある。それも相手の刀がわたしのまつ毛を切ったほど近かった」
「ええ、まさか」
「闇はわたしを隠してくれるが、相手も隠す。だから、夜目がきくように訓練もした。この世はどこでも光があるからそれも必要ないのう」
「また沙羅ちゃんは、どこか別の世界で生きてきたようなこと、言ってんだから」
朱里はそう言って笑う。
彼女も半分くらいはわたしの言うことを信じているが、どこから来たのかという想像しきれないのだ。それはわかる。しかし、自分はこのような平和なところにいられるということをもっと実感してほしい。
なんでもない明日が来ることは、幸せなことなのだと。
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