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マジでびっくりした。
あんなとこに本物の人が入ってるなんて思ってもみなかったから。
それはあるバイトでのことだった。
僕は青柳剛志。函館にある大学に通っている。親は札幌郊外だから学生寮に入り、バイトを掛け持ちしてまあなんとかやってるんだけど、マンネリの金欠病。
友人たちは実家がわりと金持ちで頻繁に飲み会をやってる。そんな誘いも家呑みなら三回に一度は足を向けるけど。
少しは楽しまなきゃって言われるけど、飲み会や街へ出て遊ぶことだけが楽しいわけじゃなく、僕は働いてもその現場を楽しむことにしてる。
そんな時、同じ大学の先輩から一日だけのバイトを紹介してもらった。朝8時から5時までで三万円って聞いて飛びついた。こういうのって怪しいことをやるか、すんごい肉体労働だと決まっている。これは後者だ。
解体で出てきた廃材、石なんかをトラックに積み込む単純作業らしい。自慢じゃないけど、僕は普段10キロの米以上に重いモノを持ったことがない。筋肉をつけてもいないし。
けど一日ならなんとかやれるだろう。最近はあまりいいモノ食ってなかった。三万円もらったら自分への褒美として今夜はお一人様焼肉と決めた。
朝、とりあえず腹ごしらえだけはしておかないとって、コンビニに駆け込み、おにぎりを五つとペットボトルのお茶を二本買った。そのうちの一つ、明太子おにぎりのラップを開け、ぱりぱりの海苔にかぶりつきながら集合場所へ足を向ける。
朝比奈駅前にある公園の駐車場に立ち、二個目のツナマヨを咀嚼していると大型トラックがこっちに近づいてくるのが見えた。
四十代くらいのこげ茶に日焼けした顔がひょいと出てくる。彫りの深いイケメンの親方は窓から顔を出して「青柳君かい?」と声をかけてくれた。
手にしていた半分のおにぎりを急いで口に放り込む。もごもごしながらもう一度「はい」と返事をした。
トラックの中にはもう一人乗っていた。親方より少し若そうな三十代くらいの強面のおじさん。頑固そうな眉間の皺とへの字口がそんな印象だった。車高のある車だからドアを開け、ステップに足をかけてよいしょっとばかりに座席に乗り込んだ。
「青柳君、今日はよろしく。オレは吉田で、こっちは高槻くん」
「あ、よろしくお願いします」ぺこりと頭を下げた。
さっそく親方は車を出す。慌ててシートベルトをして車に揺られた。
大学生なんだってねと言われ、僕は年の違うおじさんたちとなにを話していいかわからないから今の大学生活で金欠病、勉強の大変さなどを勝手にしゃべりだした。そこから車で約一時間っていう距離の現場へ向かった。
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