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やがてトラックは山ばかりの地域でスピードを緩めた。それぞれの山に名前がついているんだろうか。見分けがつかないくらい高さも緑の濃さも似ている。舗装されている道路から外れ、向こうから対向車が来たら先に進めないくらい細いガタガタ道をさらに進んだ。時折すごい穴みたいなものや石も転がっている。周りは枯れた草木で覆われていて景色を楽しむなんてことは無理。
やがて親方はトラックを止めた。ギイイっていうサイドブレーキをかける音。
「さあ、着いた。よろしく頼む」
「ここが現場っすか」
辺りには解体するような建物は見あたらない。
「もっと上なんだけど、この先は車が入れない。一輪車を押して行くんだ」
そう言われて、ああ、と納得した。
僕は親方から手渡された軍手の上にゴム手袋までつける。ヘルメットと少し大きめの頑丈な長靴、粉塵予防のための透明なゴーグルに粉塵用のマスクも。「ほれ、これも持っていって」と手渡されたのはシャベル。えって思ったけど思ったより軽い。
一輪車なんて初めて使う。親方はごっついハンマーと一輪車。高槻さんもハンマーとシャベルを一輪車に乗せる。
僕は二人の真似をして後をついてく。かろうじて残っているような小道を進んだ。その道はくねくねしていてそれでも段々上へ昇っているとわかった。
新緑の季節はもうすぐ。枯れた草木の間によく見ると新しく生えてきた若葉のようなものが見えた。そのまま五分ほど舗装されていない道を上っていく。さらに松の木々が茂る小道に入った。
周りの木が手つかずで茂っていて昼間でも暗い。昔の道なんだろう。車なんかがまだない時代からある道って感じがした。
狭い木々の道から目の前が開けたと思ったらそこには五十段はあるだろうと思われる石段があった。
マジでこれを昇るわけ? って口走りそうになった。親方と高槻さんは涼しい顔をして石段のヘリに一輪車のタイヤを乗せ、スイスイと上がっていく。なるほどと感心しながら僕も真似をした。最初の十段ほどはよかったけど、石段はけっこうキツイ。すぐに息があがる。
「青柳くん、大丈夫か」と笑いながら親方が叫んだ。もう二人とも石段の上にいた。僕はハアハア言いながらやっと石段を登り終えた。
そこには木々生い茂る場所に平な場所。草は生えているが、人々がお参りのために足を運んだのだろう。きちんと踏み固められた場所だった。その奥まったところに半壊の建物がある。そこが現場だ。
山の中腹にある廃神社だった。昔はかなり立派な建物だったんだろう。もうかなり解体されていて、本堂だけだ。それを壊し、廃材やら石なんかを拾い集めて更地にするそうだ。
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