視えちゃう人・田牧和香

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 朝、目覚まし時計がなる前に目覚めた。時計を見ると六時四十五分。七時になる予定の時計のスイッチを切った。本来ならいらないと思うが、もしかすると寝過ごしてしまうかもしれない。いつもの習慣で目覚まし時計のスイッチを入れるのだ。  今日は日勤。八時までに行けばいい。自転車で五分の所に住んでいるから楽勝だ。  冷凍庫から作り置きのラップしたご飯とミニハンバーグ、青菜の煮びたしのカップを出す。これらを弁当箱に入れるだけでランチの出来上がり。昼間、電子レンジで温めればいいだけ。  今はバナナ。これを一本食べるだけで朝食が終わる。小腹がすいたらナッツとレーズンを食べればいい。  それでも冷蔵庫を覗く。今日は帰りに買い物をした方がよさそうだ。小さくたたんだエコバッグを二枚カバンの奥へ忍ばせる。  顔を洗い、歯を磨いて長い髪をブラシで梳かし、ゴムでくくった。鏡の中のわたくしは、青白い顔をしていた。少しはファンデーションを塗った方がいい。わかっているが、億劫になる。  わたくしは、人の目に止まらないことを好む。まるでいないかのように、そっけなくされてもかまわない。人の話題に上らない、なんとなくそこにいるだけの存在が楽なのだ。  そんなわたくしが突然、口紅などをつけていくと空気のような存在が実体になって見えてしまう。それが褒め言葉だったとしてもわずらわしいのだ。
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