視えちゃう人・田牧和香

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 支度ができた。まだ家を出るには早い。それで滅多に見ないテレビをつけた。すると、事件が起こったらしく、レポーターが実況中継をしており、テレビ局のアナウンサーと興奮して話している様子が映し出された。  なにがあったのか。わたくしは、テレビの前に仁王立ちしたまま、ガムを手にして口に入れた。ガムは噛むことによって頭の回転をよくしたり、ストレスが緩和される。ミントの爽やかな香りも目覚めさせてくれる。だから出勤前に噛みはじめ、白衣に着替えてからごみに捨てるということを習慣づけしていた。  どこかのコンビニの駐車場らしい。そこには数台の車が止まっていて近所の人らしい主婦がインタビューに応じている。こんな朝から。 ≪本当に怖いです。この店よく来るし、うちの娘も一人で夜、来てたんです≫     そう眉をひそめながら言うが、あきらかにテレビ映りを気にして不自然にも右側を向いてしゃべっている。 《防犯カメラには犯人らしい人の陰が映っていた模様ですが、小柄な少年のようだとのことです。顔は判定できないと関係者からの取材でわかりました》 【そうですか、では、また新たなる情報が入り次第、伝えてもらえますか】  そうスタジオのアナウンサーが言う。それで中継は終わった。テロップが下に出ている。  朝霞台付近のコンビニの駐車場で、昨夜中学生の少女が何者かに首を刺され、重体。  朝霞台といえば、隣町だ。物騒だと思った。中学生の少女と聞いて、うちに入院しているあの少女を思い出す。どうしてあんな子供を狙うのか。なにが面白いのか。  わたくしは、こんな世の中を呪いながらアパートを出た。  
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