小児科の中学生・稲原朱里

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 ああ、どこかからショパンのノクターンが聞こえる。  この小児科には子供たちが一緒に遊べるように広場のようなところがある。誰かがそこでCⅮを流しているんだろう。  穏やかなピアノのしらべ。思わず、手が動いてしまいそうになる。  あ、でもすぐに思い出されるある人の顔。ズンと腹の底が沈むよう。    嫌だ、この曲。  三階の窓から眺める空は青い。本当にきれいな色。絵具の色ってこの空を眺めながら調節して作ったんだ。自然ってすごい。  当初、私が入院したときはこの部屋には三人のティーンがいた。私は廊下側のベッドでカーテンを引くと暗くなってしまう。そしてその三人はとても仲が良くて、彼女たちの話に新参者の私は一度も入ることはできなかった。  そのうちに一人が退院していった。そしてもう一人が。昨日、残っていたもう一人が出ていってこの部屋に私だけになった。  それで明るい窓際のベッドに移してもらった。この四人部屋を独り占めできたのは、その日のほんの一時間ほどで、その日、後から別の少女がもう一床の窓際のベッドにうつってきた。  一週間前からここに入院している。その時の私は、十五年も生きてきてもうどうでもいいと思っていたし、ここへ母親に連れられてくることにも異議を唱えなかった。  私は、また学校の全校集会で倒れた。私はもう保健室の常連で、先生も待ち構えていて、私の顔を見るとやっぱりって思ったらしい  勘弁してよね、まったくもう、なんて声が聞こえそうだった。
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