解体工事のバイト・青柳剛志

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 さあ、作業開始。  親方と高槻さんがハンマーを振り上げて容赦なく建物を壊していく。かなり古い物だったらしく、頑丈そうな柱なども簡単に砕け散った。その際、けっこう細かい板やら木材が散乱する。  僕はそれらをシャベルですくい拾い集め、一輪車に乗せる。それがいっぱいになったら下へ降りてトラックの荷台に運ぶということ。  けど、あの石段をどうやって降りるんだろうと考えていると親方がそれを察したかのように教えてくれた。 「裏手の方に小道がある。廃材を積んだら落とさないようにそっちを行ってトラックまで運んでほしい」  なるほど。石段はきついけど近道ってことか。  シャベルで砕けた木材をすくい、一輪車に乗せる。大きめなのは手で拾う。数分もたたないうちにいっぱいになった。そして親方に教えてもらった小道を降りた。  こちらの道は草が生え、木の根っこも飛び出していたけどそれが返って坂道を下る滑り止めになっている。ここも昔、人々がお参りにくるために足を運んだんだ。  もう何度昇ったり降りたりしたんだろう。思い出せないほど行き来した。あまり運動しない僕のふくらはぎはパンパンだ。あっという間に午前中が終わった。  昼休憩の時、トラックのすぐ横に青いシートを敷いてくれてそこに腰を下ろす。親方のもってきたミネラルウオーターで手を洗わせてもらい、コンビニのおにぎりにかぶりついた。こんなに腹が減って何かを食べるなんて今までになかったかもしれない。労働後の食事って格別だなんて思う。今日限りだけど。 目の前にはトラックの荷台から見える無残な姿になった赤い柱。 「青柳君、頑張ってくれて助かるよ。この調子だと日暮れには間に合いそうだ」  そう言われてぎょっとする。五時までって言われたけど、時間がきっかりに帰れるわけじゃないんだ。その頃には終わるだろうっていうこと。終わらないと帰れない。それに気づいてちょっと疲れたかも。 「はあ」とため息交じりの返事の僕に気遣うように「ほれ、これも食え」と差し出された。  それは大きな弁当で、ハンバーグから唐揚げまでぎっしり詰まっている。割りばしを逆さにして紙皿にとり、手渡された。みんなで分けるように持ってきたのがわかる。 「ありがとうございます」  なんだかうれしかった。高槻さんはあまりしゃべらないけどハンバーグをヒョイとつまんで咀嚼している。目元が緩んでいる。怖いって思ったけどそうではないらしい。無口でちょっと人付き合いが苦手ってことなんだろう。
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