哀する貴方を愛してる

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 初めて会ったのは妻の墓の前だった。  彼女も家の墓参りに来ていて、ちょうどすれちがったのだ。  五月七日、奇しくも誕生日が命日となった妻、つゆりが私と彼女を巡り会わせてくれたのかもしれないとそう思っていた。  今の妻、つぼみは二歳年下、結婚してから知って驚いたのは中高と同じ学校だったこと。死んだ妻と知り会ったのは中学に上がってからだったから、つぼみもつゆりを知っていたのか、二学年違えば知り会う機会はあまりないが、私は運命的なものを感じた。  私は結婚してからも月命日の墓参りを続けた。それはつぼみも許してくれたし、彼女も一緒にお墓に手を合わせてくれた。仏壇の花瓶にも花を入れ替えてくれていた。私がそうしてつゆりの死を悼む姿を彼女は優しく微笑んで見ていた。  しかし、それが一年三年と続くと彼女に申し訳ない気持ちが出てきた。いつまでも死んだ前妻を思っている夫なんて彼女はどう思っているのか、それを聞く訳にもいかず心にわだかまりが残っていた。  結婚から五年が経ったある日、私は意を決して彼女に面と向かって聞いてみた。 「つぼみ、今までつゆりの墓参りに付き合わせたり仏壇の手入れをさせたりしていたけど、君は、その、いつまでも前妻を悼む旦那を、どう思っているのかと、正直に答えてくれていい、教えてくれないか」  彼女はにっこり笑ってまるで当たり前ように答えた。 「何を言ってるんですか、そんなこと気にしなくていいんですよ、私はあなたの悲しみに寄り添いたいと思っているんです。そして悲しむあなたを愛して、そんなあなたが好きなんです。だから……」  最後に言葉を止めた彼女。何か言いづらいことでもあるのか。その次の言葉を聞いて私は背筋が凍った。 「だから、つゆり先輩を殺したんですから」  聞き間違いだと思いたかった。でもそれは幻聴でもなく、しっかりとした彼女の告白だった。 「私、中学の頃からあなたが好きだったんです。ちょうど三年生の先輩で自殺した方が出た時、生徒会長のあなたは、全校集会の場で弔辞を泣きながら読んでいましたよね、その時のあなたの姿に心惹かれたんです。この人の悲しむ姿はなんて綺麗なんだろうって。でもその時からあなたの隣にはつゆり先輩がいたから、高校に行っても変わらないし、だからね、あなたの傍でずっと悲しむ姿を見られるようにするにはどうしたらいいかなぁって考えて、先輩とあなたが結婚するまで待ったの。そしてちょうどいいかなっていう時期に電車のホームから落ちてもらってね、そして私はお墓に通って、偶然を装ってあなたと会った。そこから先はこの通り、だから大いに悲しんで、私は悲しむあなたが好きで、それを見ているのが幸せなの」  この女は何を言っている?  恐ろしい告白に血の気が引いているのに反して、自分の中の何かが沸騰している。  そうか、わかったよ。つゆり、君がこいつと会わせてくれたのはこのためだったんだね。  気づけば仏壇の花瓶を手にしていた。  そして――  残ったのは散乱した水と赤く染まった竜胆の花。
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