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うちの屋敷のお嬢様は美と聡明さを兼ね備えた才媛だ。町の皆の憧れの的で、彼女に愛を告白する男性は絶えない。そんな彼女の好物は、屋敷の庭で採れる林檎。今日も料理人が作ったアップルパイに舌鼓を打っている。バターが香るサクサクのパイに、甘酸っぱい林檎のフィリングがたっぷり。ほおばれば、香ばしいパイ生地とジューシーな林檎が甘いハーモニーを奏でる。
だが庭師の俺は知っている。あの林檎は人間を喰う。お嬢様を目当てにうろつく男どもを、枝を絡めて捕えては、そのまま身体に枝を食いこませて喰らう。そうして紅い紅い実をつける。俺は知らないふりをして、お嬢様に林檎を採って見せる。「お嬢様、今年の林檎もうまそうですよ」と。
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