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ワン!(ごはんちょうだい!)
「ロクー!」
「キャンキャン! ワンワン!」(みんな、こんばんは!)
「お、ロク。今日もかわいいな!」
「ワンワオーン!」(ありがとう!)
「ほーら、わしゃわしゃ……」
「ハッ、ハッ、ハッ……!」(気持ちいいよー!)
「六郎のときは無愛想なのに、ロクになるとめっちゃ甘えん坊になるなあ」
「ワォン? ワン!」(かわいいから別にいいだろ? じゃあな!)
俺は、美波ちゃんちに行った。
「ロク! こんばんは」
「ワオーン! ワン!」(美波ちゃん! ごはんちょうだい!)
「ロク、ちょっと待ってね」
美波ちゃんちは、老舗の洋食屋さんだ。
うまい肉! うまい肉が食えるぞ!
「ハッ、ハッ、ハッ! ワンワンワオーン!」
(ヨダレが止まらないよ! 美波ちゃん、早く! 早く!)
「はい、ロク!」
「ワ、ワオン……?」(なにこれ……?)
「ドッグフードをスープでふやかしたんだ。胃に優しいよ」
「ワワワワン!?」(ドドドドックフード!?)
「ロク。最近、中性脂肪の値が増えたんでしょ?」
「キャン!?」(なぜ知ってる!?)
美波ちゃんは、俺に一枚の紙を見せた。
『犬井町通信 ワンダフル一族のミニチュアダックスフンドのロクちゃんは、先日の健康診断で総コレステロール値が408になったそうです。かわいがってもいいですが、餌やりはほどほどにしましょう。町長』
「キャーン……!?」(町民全員に、俺のコレステロール値が知られているのか!?)
「私、ロクに長生きしてほしいからさ」
「キューン……」(そんなあ……)
「ロク。その代わりと言っちゃなんだけどさ……私と……デートしない?」
「ワワワワン!?」(デデデデート!?)
「ほら、ロク! いくよー!」
「ワンワン……」(これは……)
公園で、美波ちゃんがボールを投げる。俺は走って、ボールを取りに行く。
「ロク、早いね! ほら、もう一回いくよ!」
「ワン……!」(犬の習性でダッシュしてしまう!)
夕暮れの公園でボール遊びをする俺たち。その様子を、友人たちが笑って眺めている。
「ははは、がんばれよー!」
「ほら、もっと走れー! 408ー!」
「グルルル……!」(俺をコレステロール値で呼ぶな!)
まあ、いいさ。
健康になれば、またうまい肉が食えるもんね。それに、大好きな美波ちゃんと遊べるのって結構、楽しい。
美波ちゃんと過ごせる、幸せなワンダフルタイムだ。
……このことは、誰にも言わない俺だけの秘密だ。
【了】
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