蹴破った先

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 ―*―*―*―*―  管理人の発見から数時間後、俺たち散歩サークルのメンバーは、管理人室の窓から見える桜を眺めている。外は大雨だ。 「花咲かじいさんのコスプレをして花見を盛り上げよう! っていう企画の看板だったんですかぁ」  俺はビールを一口飲み、管理人に向かって言った。 「そうそう。立て看板、書きかけのまま置きっぱなしにしちゃってごめんね。確かに、言われてみれば事件が起こっている感出てたよね。実は、『管理人が考えたサプライズイベント、ご用意しています!』って書く予定だったんだけど。途中でペンのインクが出なくなちゃってさ。後でペンを買いに行って、それから書けばいいや、って中断したわけさ。しかし、せっかくコスチュームを自腹で買ったのに、まさか雨なんてね」  管理人は、机に寂しそうに置かれている『花咲かじいさんコスプレセット』を横目に悲しそうな顔をする。 「そうだ! 迷惑じゃなかったら、日を改めて、ご一緒させて下さいよ」  気づけば、俺はそう言っていた。メンバーに相談をせずに。場が静まり返る。すると… 「おお! リーダーにしては名案だ!」 「いいっすね」 「花咲かじいさん大量発生ってか」  ああ、良かった。さすが、ノリがいいメンバーたちだ。皆、俺の発案によりテンションが上がりまくっているじゃないか! と嬉しくなった。 「君たち……ありがとう」  管理人が涙ぐんだ。俺たちは「では、また後日。ドアの修理代は速やかに支払いますので」と頭を下げて、公園を後にした。  少し歩いていると、雨が少しずつ弱まってきた。もちろん皆、傘をさしている。「傘忘れちゃいました」なんて奴は一人もいない。俺を除いて。 「リーダーさん。良かったら、どうぞ。一人分なら、どうにかなりますので」  振り返ると、走って追いかけてきた管理人が傘を持って俺に手渡してくれた。  ──新たな出会いに感謝だ。        (了)    
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