蹴破った先

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 勢いに身を委ねて、後悔することが多々ある。一人のときはブレーキがかかるのだが、多人数になるとブレーキがぶっ壊れてしまう。後悔と反省の毎日だ。そういうのが若さってヤツかな? いや、人によるか? 人っていうのは誰もが、そういうものなのか? ──俺らのサークルはブレーキがぶっ壊れるタイプだった。  夜明け前。大学の散歩サークルのリーダーである俺は、花見をするためにメンバー30人を引き連れて歩いていた。  これから、『他の誰よりも早い時間から花見を楽しんじゃいましょう!』というミッションを遂行する予定だ。先ほど大学に集合してメンバー全員が揃ったので公園に向かっているわけだが、みんな大興奮。  間違いなく、今の俺たちは騒々しい。ここは、リーダーの俺の出番だ。 「メンバーのみんな! 聞いてくれ! 昂っている気持ちをクールダウンしよう。そんなに騒いじゃ周囲の住民たちに迷惑だよ」 「あ、そうだな」 「確かに」 「リーダー、素晴らしい指摘をありがとう」    まったく! みんな素直で良い奴らだ! 俺たちは瞬く間に沈黙の集団へと変化する。  とてもお行儀よく歩いている俺たちが公園に到着すると、入口にペンで『管理人が』と書かれた立て看板が設置されていた。 「何あれぇ?」と驚く、副リーダーの4年生、勇人。 「事件の匂いがするな」と興奮し始める、いつもは冷静キャラの3年生、玲斗くん。 「何だか、怖いですー!」と言いつつ、玲斗くんの顔をチラチラ見ている2年生のユイナさん。 「警察に連絡した方がいいですよね」とポケットからスマホを取り出す新入生のX氏。(すまない。まだ名前を覚えていないんだ。俺、リーダー失格だよな...)  俺は「管理人室に行ってみよう」とメンバーを説得して、入口脇にある管理人室へと向かった。 「すいませーん!」  X氏が管理人室のドアを叩く。が、反応がない。  すると、「野田くん、離れて」とユイナさんか口を開いた。俺は「誰だ? 野田って」とユイナさんに訊く。ユイナさんがX氏の方を見た。なるほど。 X氏=野田くんってわけだな。 「野田くん、ユイナさんが何か案があるらしい。離れて」  俺はさっそく、覚えたばかりの「野田くん」を使ってみる。野田くんの悲しい表情が日の出の明かりに照らされていた。  野田くんが管理人室のドアから離れた途端、ユイナさんのキックがドアに炸裂した。そういえば以前に飲み会をしたときに、「格闘技をやっていたことがある」と言っていた気がする。 「凄いキックだな! なあ、X氏?」  俺は横を見た。 「ふぇ?」  あ、違う。 「凄いキックだな! なあ、野田くん?」  俺は言い直した。 「ええ」と野田くんが唾をゴクリと飲み込む音が聞こえた。  繰り返される、ユイナさんのパワフルなキック。  バーン! パーン! パンッ! パパッン!    キックには色々な種類があるんだな、と感心せざるを得ない。 「まさか、管理人室のドアを蹴破ろうってか?」副リーダーの勇人が、誰もが思っているだろうことを口に出す。 「なんか、ドラマとか映画みたいですね!」  冷静キャラの三年生、玲斗くんが俺の方を見る。俺は「そのセリフ、今から言おうと思ってたのに」という言葉を飲み込んで、頷いた。 パパッン! パパッン! パパッン! パッ、グウ! ガシャーン!  ついに、ドアが蹴破られた。  ユイナさんが玲斗くんを見て微笑む。玲斗くんが照れた顔をした。俺は二人を交互に見て、いいな、と羨ましくなる。
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