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第1話
「絶対に秘密だよ」
それは転校先の学校で、生徒全員に行き渡るまで使われたのではないかと思われる言葉で朋も例外ではない。
朋は高1で髪をツインテールに結っていて、大きな瞳から動物で言うとウサギを連想させる女の子だ。
155センチ52キロと平均的な体型だが、本人はダイエットに明け暮れている。
そんな朋が引っ越してきたのは、都心から電車を乗り継いで4時間の風光明媚と言えなくもない山に囲まれた田舎だ。
そして家から通える距離にある唯一の学校が朝坂高校で、今日が初登校の日だった。
「隣駅だよね?私達もなんだ。朋って呼んでいい?私達の事も名前で呼んでいいからさ」
「うん、よろしく」
初登校で心配だったけれど、みんな気さくに話しかけてくれて帰りも一緒に帰る事になった。
朝坂高校には、昔から語り継がれてきた遊びがあるらしい。
ここは田舎で、駅と駅が少し離れているので歩くには距離がある。
けれど1時間に一本しか来ない電車を待つよりも線路を歩いて行く方が早い。
学校では禁止されているが、昔から生徒達は線路を通って家路に着く。
けれど朝坂高校には、ある民話が伝わっていた。
夕方の16時に5人で一列に線路の上を駅から駅まで歩いて行くと、次の駅では友達が1人増えていたり減っていたりすると言うものだ。
だから生徒達は面白がって、16時になると友達と一緒に線路の上を歩いて帰る。
勿論、5人で。
「なあ、本当に人数が減ってたらどうするん?」
「いや~増えてても怖いわ」
「増えてる分には、知らない子を交番に連れて行けばいいんじゃない」
「そっかあ」
5人は民話について話しながら、線路から落ちないように歩いて行く。
「線路から落ちたら行けないんだっけ?」
「そうだよ。落ちなかったら、減ったり、増えたりするんだよ」
「でも、それって変じゃない?」
「何が?」
「だって、これ村に伝わる民話なんだよね」
「う、うん」
「なのに、何で減らしたり増やしたりする為の方法を教えているの?」
「どういう事?」
「普通ならこうしたら減るからダメ、こうしたら増えるからダメって教えるものじゃない?」
「何よ、怖い言い方しないでよ」
「うん、まあ実際に線路から落ちた方がいいのか、落ちない方がいいのか分からないんだけどね」
「ねぇ、もうすぐ駅に着いちゃうよ」
「着く前に人数数えとく?」
「それとも線路から下りて駅に向かう?」
「ごくりっ」
「数えよう。私が一番」
一番前を歩く学級委員長でオカッパ頭の洋絵が答えた。
「私が二番目」
次は小柄で少し茶髪の入ったショートヘアが可愛い早苗が答えた。
「勝実が三番目」
三番目が女子にしては大柄で食べる事が大好きな勝実。
「私が四番目」
艶々の黒髪が綺麗なロングヘアの美湖は、背が高くて細く一見するとモデルのようだ。
「私が五番目」
転校生で髪をツインテールにしている朋だ。
「ひぃ~私、六番目になっちゃったよ」
背は低いが少しぽっちゃり気味で色白の栄子だ。
「ぎゃあー」
皆が一斉に線路から下りて、次の駅に向かって走り出した。
駅のホームを過ぎれば、踏み切りがあって、駅の外に出られる。
「誰?誰が多いの?」
「分からない。だって、全員知ってるよ」
「うん、知ってるみたい」
「私が洋絵で、早苗、勝実、美湖、朋、栄子」
洋絵は1人ずつ指を指して名前を答えた。
「家に帰ればいいんじゃない?5人は帰れるけど、1人は家がない筈だもん」
「そうだね。バラバラに帰る?」
「一緒に帰って最後に残るのは怖いけど、1人も怖いね」
そんな話をしながら、家のある方角に歩き出した。
しばらく歩いていくと目の前の真っ直ぐに続く道と、左右に分かれる道に出た。
「じゃあ、私こっちだから」
「私も」
栄子と勝実が、分かれ道を左に曲がっていった。
「待って」
洋絵の言葉に、2人が引き留められる。
「ど、どうかした?」
勝実はビクビクしながら、質問した。
「ううん、ただ何かあった場合に、どこかで集合するのかな?スマホで連絡取る?」
「そうだ、帰ってから連絡し合おうよ」
「今は、ダメなの?」
朋が口にした言葉で、皆に睨み付けられた。
そう、6人目の連絡先を知らない筈だからここで知るのは恐ろしい。
「そうだね。帰ったら連絡するね」
「じゃあね」
「バイバイ」
栄子と勝実は、手を振って帰っていった。
「じゃあ、私達も帰ろうか」
「うん」
残った4人は、それぞれ無言のまま分かれ道まで来てしまった。
洋絵と朋は、このまま真っ直ぐ進むと、もう家が見えてくる。
早苗と美湖は左右に分かれて、直ぐに家の庭に到着する距離だ。
「じゃあね」
「またね」
「┅┅」
この子達を私は本当に知っているだろうかと、洋絵はじっと友人達の顔を見ていた。
「どうしたの?」
「明日、皆に会えるといいなと思って」
洋絵はそう答えていた。
「そうだね」
「きゃー」
今来た道から、勝実が叫びながらやって来た。
「どうしたの?」
「分からないけど、家に誰もいないの」
勝実の唇は、ブルブル震えていた。
「え?」
「家に行ったら、誰もいなくなってたの。食事の支度をする途中で消えたみたいに」
「出掛けたんじゃなくて?」
洋絵がゴクリと唾を飲みながら聞いた。
「だって、今まで一度だってそんな事なかったのに。それに人数もおかしかったから怖くなって」
勝実を落ち着かせようと、背中を擦った。
「帰ってくるまで、うちに来るといいよ」
洋絵は家に誘った。
「でも┅┅」
勝実は洋絵の家に1人で行くのも躊躇われた。
「え?よく遊びに来てたじゃん」
「そうだっけ?」
「え?」
「ちょっと勝実、いい加減にしなよ。洋絵の家でUNOしたの忘れたの?」
「覚えてるけど、分からないんだもん」
勝実の言いたい事は分かる。
この記憶が、本当に自分のモノなのか、そもそも自分が本物なのかさえ分からないのだ。
「じゃあ、私帰るから好きにすればいいよ」
洋絵は仕方ないと思った。
「私も帰るね。バイバイ」
朋も洋絵を追いかけた。
「勝実、どうする?」
早苗と美湖は、勝実を置いて帰る事も出来ずにいた。
「じゃあ、3人で私の家に行こうよ」
美湖が提案した。
「そうだね。私の家も目の前だし」
早苗が賛成した。
「うん」
それで勝実も納得して、美湖の家に行く事になった。
「ただいま」
美湖が挨拶をするが返事はない。
「まだ誰も帰ってないみたい。テレビでも見て待とう」
「お邪魔します」
「入って、入って」
玄関で靴を脱ぎ奥に入って行く。
右手に畳の応接間があり、中央にテーブルが置いてある。
「座布団敷いてね」
脇にまとめられていた座布団を2人に渡して、自分の下にも敷いた。
「あれ?テレビ壊れてる?」
白黒のザーザー画面が出るだけで、番組が映らなかった。
「え?」
突然、電気が消えて真っ暗になった。
「きゃあ」
勝実が叫んだ。
「静かにしてよ。ただの停電だよ」
美湖は自分の家だからか、落ち着いていた。
「ブレーカー見てくる」
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