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次の春を迎え、目黒川の桜は満開の時期を過ぎていた。
悠久は仕事で大きな案件を抱え忙しく、週末も会えない日が続いた。
家で暇を持て余していると、悠久から着信がある。
「もしもし、佳乃?今から中目黒これる?」
「うん。」
「じゃあ、デートしよう。着いたらまた連絡して。」
電話を切ると、支度して電車に乗る。
中目黒駅で降りると、改札で悠久が待っていた。
悠久は私の手をとり、歩き出す。
「どこいくの?」
「目黒川。」
悠久は目に隈ができていて、疲れが見える。
昨年と同じ場所で立ち止まると「見て」と言って目黒川の水面を指す。
一面を桜の花弁が覆い、ピンク一色に染まっている。
「綺麗。」
(散った花弁の絨毯だ。)
「結局去年見てなかったでしょ。桜の散り際。今日は特に綺麗だったから。」
「ありがとう。覚えててくれて。」
1年前の何気ない会話を覚えていてくれたことがただただ嬉しかった。
「またお花見の記憶上書きできた?」
目を細めて笑う悠久の後ろには満月が浮かび、彼を輝かせる。
「できた。この景色は忘れられないね。」
悠久は桜から目を離し、私を見下ろす。
「会うの久しぶりになっちゃったね。やっと仕事落ち着きそうだよ。今日は俺の家来る?」
「うん。悠久に会いたかったし、行くよ。」
見上げると、悠久と目が合う。
橋の真ん中で見つめ合っている状況に照れ笑いする。
「ねぇ、佳乃。改まって言うのも恥ずかしいし、ちゃんと言ったことなかったんだど。俺佳乃のこと好きだよ。すごく好き。だからさ、一緒に住まない?」
悠久が言った。
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